価値は人がつけるもの。藤原ヒロシが自ら語ることを嫌うワケ

藤原ヒロシ

──誰かに教えられるのではなく、自分で解き明かしたくなる「謎」があってほしい、と。 

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そうですね。「謎」を探求することで「奥行き」が見え、自分なりの解釈で「余白」を埋めることができるのは面白いと思いますね。

例えばアイ・ウェイウェイというアーティストの作品に、中国で発掘された紀元前の壺にコカ・コーラのロゴをペイントした作品『Coca-Cola Vase』があります。人類史的にも貴重な古代中国文明の遺物を、アメリカ的な資本主義の象徴であるコカ・コーラのロゴでわざわざ「汚す」コンセプチュアルな作品です。

1957年生まれの現代美術家アイ・ウェイウェイは、思想家、活動家としても知られる。漢時代の壺を壊す、上塗りするなどした一連の作品は、伝統的な価値を壊し、新しい価値を生み出そうとする姿勢の象徴でもあるが、文化財の破壊行為であるという批判もある。(Getty Images)
1957年生まれの現代美術家アイ・ウェイウェイは、思想家、活動家としても知られる。漢時代の壺を壊す、上塗りするなどした一連の作品は、伝統的な価値を壊し、新しい価値を生み出そうとする姿勢の象徴でもあるが、文化財の破壊行為であるという批判もある。(Getty Images)

それを見ても「コカ・コーラのロゴがかわいい」としか感じない人もいるでしょう。でも、そこにデザインとしての面白さ以上のものを感じた人なら、「このロゴが象徴するものは何だろう?」と、作品に込められたメッセージを読み取ろうとすると思うんです。そんなふうに見る人のセンスや理解の度合いによって解釈が広がり、深みが増す。それがアートのもつ余白であり、奥行きですよね。

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──どうしたら、そうした奥行きや余白を見出す資質を得られるでしょうか?

どうでしょう。僕自身は、アート云々以前に、時計を見るとその仕組みを知りたくて分解するような子どもだったので。今でも、すぐにわかってしまうものよりは、その先を知りたくなるような好奇心を刺激するものが好きです。でも、奥行きや余白を提供することは誰にでもできるんじゃないでしょうか。

──あえて、「謎」を含んだものを発信するということですね。 

そう。アーティストは無意識にそれをやっているのかもしれない。でも、ビジネスの戦略では予測できるデータやアルゴリズムが優先されるのではないでしょうか。

──実際、奥行きや余白に反応するのは限られた少数かもしれません。 

僕はそれで良いと思うんです。さっきの「好き・嫌い」の話とも通じるけれど、やっぱり多くの人は、わかりやすいもの、自分で判断しなくても良いものを求めがちではあると思う。でも、なかには何の説明もない、余白だらけのものに奥行きを見出す人たちはいるはずだから。

そして、その余白を自分なりの解釈で埋めれば良いし、自分なりに奥行きをつくっていけば良い。仮にその解釈がまったくの勘違いだったとしても、むしろ、その勘違いこそが面白いと思う。僕のつくったものも、そんなふうに自由に解釈してもらえればいいと考えています。

──「正しい・正しくない」ではなく。 

まあ、何年後かであっても「実は、こういうことだったのか」と僕の意図に気づいてもらえたら、それに越したことはないですけれど(笑)。

『FRAGMENT UNIVERSITY 藤原ヒロシの特殊講義 非言語マーケティング』(集英社)は、同名で2023-24年に行われた架空の大学プロジェクトの内容を一冊の講義録にまとめたもの。藤原がどのように人や仕事と向き合っているのかを垣間見ることができる。
『FRAGMENT UNIVERSITY 藤原ヒロシの特殊講義 非言語マーケティング』(集英社)は、同名で2023-24年に行われた架空の大学プロジェクトの内容を一冊の講義録にまとめたもの。藤原がどのように人や仕事と向き合っているのかを垣間見ることができる。

藤原ヒロシ◎1964年生まれ、三重県出身。80年代にクラブDJを始め、90年代からは作曲や楽曲プロデュースに活動の幅を広げる。fragment design名義でファッションをはじめさまざまなジャンルのコラボレーションを展開し、日本と世界のカルチャーシーンに影響を与えている。

【特集】ART & BUSINESS | 創造を刺激する「余白」の価値
見え隠れする経済合理性の限界。脱却の糸口としてアートへの関心が高まるが、それも既存の物差しで測っては意味がない。より速く、無駄なく進む先に何があるのだろうか。むしろ「非合理」に向き合うことに可能性があるのではないだろうか。非合理とは、つくり手と受け手の間に解釈の「余白」があるものと考え、その価値を知るプレイヤーたちに話を聞いた。

文=鈴木哲也 写真=若原瑞昌

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