ヘルスケア

2025.06.19 14:00

生まれる前から病気の予防に挑む、胎児への遺伝性疾患の治療 専門家が解説

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本シリーズ第1回では、出生直後の遺伝子スクリーニングと治療が新生児とその家族の生活をいかに変革しつつあるかを、実際に医療に携わる専門家として紹介した。今回はさらに一歩進め、生まれる前の胎児期に遺伝性疾患を治療する試みを取り上げる。もし出生前に介入できれば、状況は根本から変わるかもしれない。

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この問いに対する答えが今、驚くべき結果とともに明らかになりつつある。『Science Translational Medicine』誌に掲載された最近の研究では、動物モデルにおいて特殊な遺伝子治療を胎児に直接適用することで、脊髄性筋萎縮症(SMA。運動神経の異常により筋力低下を起こす遺伝性疾患)の発症を防げることが示された。出生前にこの疾患を治療することで、健全な運動機能を保持し、通常は子宮内で始まる神経損傷を防ぐことが可能かもしれない。これは、遺伝性疾患の根本的原因を出生前に標的とする分子療法が初めて適用された例である。

もうひとつの特別な調査例として、人間では初の事例では、妊娠中の母親に遺伝子治療を行い、出生後も治療を継続することで、通常この疾患に伴う深刻な筋力低下を防ぐことができた。これは真の飛躍的進歩である。症状を管理するのではなく、一部の遺伝性疾患が発症する前に阻止できる可能性があるのだ。

出生前の遺伝性疾患治療

この取り組みは、高度な出生前遺伝子スクリーニングから始まる。発達中の胎児における遺伝的変化は、母親からの簡単な血液サンプルを使用して発見できる。リスクが発見された場合、治療は胎児に直接実施され、多くの場合、羊水(胎児を包む液体)への薬剤注入によって行われる。脊髄性筋萎縮症の場合、動物モデルにおけるこのアプローチは、より健全な発達と長期生存につながった。これらの知見は、出生前の介入により、子宮内で始まり出生後に急速に進行する神経学的損傷を防止、または大幅に軽減できることを示唆している。

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こうした研究の大部分は動物で行われているが、人間に対する最初の応用段階はすでに始まっている。2025年2月、カリフォルニア大学サンフランシスコ校は、リスジプラム(risdiplam)という薬剤を使用して人間の胎児の遺伝性疾患を治療した世界初の試みを報告した。ある母親が、胎児にリスクがあることがわかった後に、妊娠後期からこの薬剤の服用を開始した。赤ちゃんは健康に生まれ、現在2歳を超えているが、疾患の兆候は見られていない。ただし、一部の発達上の課題は残っている。

もうひとつの重要な進歩として、カリフォルニア大学サンフランシスコ校での臨床試験において、医師たちが酵素補充療法(不足している酵素を補う治療法)を使用して、別の希少疾患を持つ胎児の治療に成功し、胎児への薬剤投与技術がすでに存在することを示した。

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翻訳=酒匂寛

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