ヘルスケア

2025.07.05 11:00

なぜ香りは記憶を鮮明に蘇らせる? 視覚より強い「嗅覚」の力

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2. 香りは鮮明な時間旅行にいざなう──プルースト現象

香りは驚くほど鮮明に、過去のさまざまな場面を蘇らせることがある。心を広い図書館に例えてみよう。そこにはたくさんの本が忘れられた棚の上で埃をかぶっている。しかしあなたが懐かしい香りを嗅ぐと、その古い本の埃は払われ、いつの間にかあなたの手元に届けられている。

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2023年のある研究結果には、特定の香りや味は、その詳細をすっかり忘れてしまっていたとしても、私たちを人生の特定の瞬間に連れ戻すとある。

そして子どもの頃に嗅いだ香りは、しばしば自身のアイデンティティを形成した記憶を呼び覚ます。この現象を「プルースト現象」と言う。

プルースト現象は他者とのつながりを感じさせ、自分の過去や人生に対する理解を深め、忘れ去られていた記憶を思い出させる。

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プルースト現象について、ハーツは2016年の研究で次のように説明している。「プルースト現象という名前はフランスの文豪マルセル・プルーストに因んだものです。その代表作『失われた時を求めて』のなかで、主人公はリンデン茶に浸したマドレーヌの香りを嗅いだ瞬間、長い間忘れていた幼少期の記憶を鮮明に思い出します。プルースト現象とはこのように、香りが過去の意義深い出来事の記憶を呼び覚ますことを言います」

この感情を揺さぶる時間旅行は、脳の構造により起こる。2012年にNeuropsychologia(ニューロサイコロジア)誌に発表された研究では、香りによって引き起こされる記憶は、他の感覚で引き起こされる記憶と比べると幼少期など遠い昔にさかのぼるものが多く、より感情に訴え、より時間旅行のように感じられる傾向があると指摘している。

3. 香りは過去の感情を長く新鮮保存する

香りが呼び起こす記憶は、感情のひだに染み込んでいる。雨に濡れた土の香り(「ペトリコール」という正式名称がある)はその好例で、ある人には夏の激しい雨が降り終わった後の静かな午後など、幼少期の安らぎと懐かしさを感じさせる。一方で、ある人には悲しみや胸が締めつけられるような寂しさを感じさせる。

記憶が現在の感情まで左右するのには理由がある。それは脳が記憶を残す際、情報だけでなく、感情も一緒に保存するためだ。強い感情を伴った体験であればあるほど、記憶はより深く刻まれる。

だから次に懐かしい香りを嗅ぎ、忘れていた記憶が呼び覚まされたときは、あえてゆっくりと、記憶の世界に身を浸してほしい。それは脳が過去の記憶の扉を開き、忘れていた物語や感情を蘇らせてくれている時間なのだから。

「あの頃に戻りたい」「昔は良かった」と思うことが多い? それなら科学的根拠に基づいた「過去へのとらわれ度テスト」を受けて、今この瞬間に意識を向けることの意義を確認してみよう。

forbes.com 原文

翻訳=猪股るー

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