ネットだけでなく、メールや個人間の共有による被害も網羅
さらに、テイク・イット・ダウン法は、オンラインで公開された露骨なコンテンツの共有にのみ適用されるが、このような画像は別のルートでも配布される。専門職に就いている人が標的にされる場合、加害者はその上司にメールで露骨な画像を送ったり、職場の同僚の間で画像を回覧したりといった、別の手段を使うことも多い。
性的暴力防止協会のマルトーン自身がディープフェイクポルノで個人的な攻撃を受けた際に、加害者は、SNSに画像を投稿しただけでなく、雇用主に宛てた「マルトーンを解雇しろ」というメッセージ付き画像を送付したという。ただし加害者は、マルトーンがその会社のCEOであることを知らずにこのメールを送っていた。
テイク・イット・ダウン法は、SNS上の画像の削除を助けることになるが、メールによる被害には対応していない。「ディファイアンス法はこの空白を埋めるものだ。上司にメールで送信された、同僚間で共有されたなど、露骨な画像を作成・配布・送信した者に対して、それがどのような手段を通じて共有されたものであっても、被害者が正義を求めることが可能になる」とマルトーンらは述べている。
女性の「モノ化」と戦う
ディープフェイクによる露骨な画像の共有は、性的な目的というよりも、むしろ支配力の行使が目的である点も重要だ。このような行為は職場において、女性を辱め、沈黙させ、影響力を削ぐための手段として用いられているとフェミニズムの研究者らは指摘している。
さらに、こうしたディープフェイク画像の共有は、広範な影響を引き起こす。主に女性が被害者となるこのような画像は、その人物の存在を「性的なモノ」に矮小化して、力やアイデンティティを奪う「モノ化(objectification)」と呼ばれる現象を引き起こす。また、このような行為は、被害者に心理的な悪影響を及ぼすだけでなく、キャリアに影響を与える場合もある。
研究によると、モノ化された女性は有能さや親しみやすさ、人間性が乏しいと見なされがちだという。また、有権者はモノ化された女性政治家を支持しにくくなる傾向があり、「思いやり」や「感情の深み」などの資質が欠けていると認識されることもある。言い換えれば、露骨なディープフェイクにさらされた女性は、その能力やスキルに対する評価を歪められる可能性がある。
ディファイアンス法は、露骨なディープフェイクの標的とされた人々が精神的苦痛や、評判へのダメージ、能力が低いと見なされること、あるいはそれに伴う失職といった被害に直面した場合に、金銭的な補償を受けるための希望を与えることになる。この法案が抑止力となり、一部の加害者が画像の生成を思いとどまるきっかけにもなりえる。


