
冒頭アジアのベストレストランの話に触れたが、クローニー自体は昨年の58位から30位へとジャンプアップし、押しも押されもせぬ一流レストランになった。春田氏の才気溢れるクリエイションはもちろんのこと、サービスの力がそれを押し上げている。
ところで、ソムリエの資質として最も大切なことは何であろうか。小澤氏は次のように語る。
「もちろん味覚や嗅覚、ワインを理解することは大切ですが、それは後からでも勉強できること。それよりも、サービススタッフの一員として、ゲストを愛する心をもち、シェフが作った一皿にどれだけ気持ちを込めてプレゼン出来るか、毎日、全てのゲストに、それができるかどうか。それは幼い頃の育ち方などにも由来するもので、資質としてはそのほうが難しいかもしれません。それと、人間としての品格かなと思いますね」
ともすると、ソムリエは自身の知識や経験を客前でひけらかしかねない。そこで一歩引き、ワインの知識を聞きたがっているのか、カップルで訪れて美味しいワインを飲みたいだけなのか、そのあたりを鋭く見極めることが何より重要である。「自己満足の押し付けとなるような接客は絶対にしない」と小澤氏は言う。たとえば品格とはそのようなことであるのだ。
ペアリングのプロセスも聞いてみた。すると意外にも、最後にヴィンテージや畑違い等、細かい調整のために試食はするものの、最初から試食することはないのだという。

まずは春田氏がその一皿に込めた思いを聞くのだそうだ。「今日の魚はここで仕入れたもので、日本料理だとこんな使用法があるので、このようにアレンジしてみた……」そんなストーリーに対して、春田氏の料理の肝が何であるのか、何をどう食べさせたいと思っているのかを自分なりに解釈し、ワインを選んでいく。
使っている素材がこれだから、ブドウ品種はこれ、というような型通りのサービスはまずしない。「サービスマンがシェフの想いをきちんと伝えらえなかったら、料理はただの素材でしかない。アートにはなりえないんです」。
ゲストへの説明も、まず情景から入る。春が旬のグリーンピースを使った一皿なら、フランスの産地であるロワール河のほとり、古城の見えるレストランで食べた一皿の記憶を引き出し、ややスモーキーなピュイ イ フュメよりも、柔らかなサンセールがぴたりと合った経験を話し、だから、今日は蛤の優しいミネラルを取り合わせているので、こちらを選びましたと、説明するわけである。
いつしかゲストの目にもロワールの古城が映り、サーヴされたワインは、まるで夢の中で巡り合ったかのような特別なありがたさを伴う至福の一杯となるのである。ソムリエの技量とはそういうことなのであろう。


