時代の変化に柔軟に対応し、“営業の新たな在り方”を実践する企業を選出するアワード「NEW SALES OF THE YEAR 2025」。そのフロンティア賞に選出されたのがニデックだ。
提案営業の比率が急伸、売上は1.6兆円から2.6兆円に。挑戦を恐れない巨大グループが、仕組み化を武器に新たな営業領域を切り拓く。
「HDD用や車載用など、各種モーターでは世界で圧倒的なシェアを誇っていますが、2017年までマーケティング機能をもった部門がありませんでした」と語るのは、常務執行役員で最高マーケティング責任者の髙橋亨だ。
創業者である現グローバルグループ代表の永守重信が、1973年にニデックの前身「日本電産」を立ち上げると、「スリー新(新市場・新製品・新顧客)」を成長戦略の柱に据え、“永守イズム”のもと、世界No.1の総合モーターメーカーへと駆け上がった。
しかし2016年ごろより売り上げは足踏み状態が続いた。報道では買収戦略や挑戦的な企業風土が取り沙汰される一方、社内では営業が属人的な体制にとどまり、組織の足元には構造的課題が残されていた。こうした課題を受けて、20年に発足したのが新しい営業業務プロセスを構築する「スリー新DXプロジェクト」である。そして、その責任者としてプロジェクトを開始したのが髙橋だった。まず髙橋は、企業文化と営業体制の双方から現状把握を行った。
「売り上げが伸びないのは、市況が悪いと他責で考えるのではなく、自分たちのやり方に課題があるという考え方からスタートしました。従来の引き合いをもらうだけの受け身の営業ではなく、提案型営業にしなければ、この先大きく伸びていくことは難しいと思ったからです」(髙橋)
ニデックは現在、346社からなるグループ企業で、複数の事業部門が専門性を軸に縦割りで組織されている。こうした構造下で、事業部の枠を超えて営業改革を推進する“横串”の役割を担うのが、スリー新DXプロジェクトだ。
仕組みで成果をだす営業へ
まず、個人の技量に依存するやり方ではなく、再現性を高めるために「業務標準プロセスの常態化」に取り組んだ。具体的には、営業活動のステージを0〜5に分解し、さらに11のステップに細分化。新人でもすぐ動けるよう、全事業部共通の営業プロセスを言語化・見える化した。特に力点を置いたのは、営業活動を行う前段階の顧客の情報収集とTAM/SAM分析(市場規模分析)から仮説を立てるプロセスだ。例えば、ある家電メーカーが冷蔵庫を現在どれだけ製造しており、今後の製造計画は何台か。そのうち他社製のモーターをいくらで調達しているかなどが把握できれば、拡販余地がわかる。あとは悩みごとやニーズに対して具体的な作戦を考え、仮説を立てたアプローチができる。これが提案型営業だ。
提案型営業実現のためには、顧客を知り尽くすことだと考えた髙橋は「カスタマー360°」を掲げ、これまで個人がもっていた顧客カルテや人脈、訪問計画などをSalesforce上に集約。組織全体で共有できる仕組みを整えた。さらに、核となる人脈情報に関しては、コンタクトがいつでも取れる「緑」、会ったことはある「黄」、面識がない「赤」と信号機にたとえて、関係性が一目でわかる「人脈マップ」を作成。徹底的に見える化を図ることで、問題認識と進捗状況の共有化を図っている。



