経営・戦略

2025.05.22 15:30

原子力発電でAI時代を乗り切る 未来へ向けたアマゾンの大きな賭け

アマゾン ウェブ サービス(AWS)のマット・ガーマンCEO(Noah Berger / Getty Images for Amazon Web Services)

ガーマンによると、SMR技術は近年、劇的な進歩を遂げており、新たな先進原子炉は1950年代や60年代の原子炉よりはるかに安全だという。スリーマイル島の原子力発電所でメルトダウンが起こり、米国の商用原子力発電所の運用史上最大の重大事故となってから45年がたつが、同島では現在、別の原子炉が再稼働される予定になっている。マイクロソフトのデータセンターに電力を供給するためだ。

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「この1年で、私たちは原子力が提供できるものについてより強気になりました。世界のエネルギー需要の拡大に、太陽光発電所や風力発電所では間に合わないでしょう」(ガーマン)

データセンター密集地域 バージニア

バージニア州は世界でも有数のデータセンター密集地域だ。州北部だけでも現在100を超えるデータセンターが稼働しており、それが電力需要の爆発的な増大につながっている。同州リッチモンドに本社を置くドミニオンの関係者によれば、バージニア州のデータセンターの電力需要は過去5年で倍増しており、今後15年で4倍になる見込みだという。

ドミニオンとアマゾンがSMR発電所を計画しているのもバージニア州で、同州で少なくとも300MW(メガワット)の電力供給を目指している。一般的なデータセンターで使用される電力は約32MWで、6000世帯分の電力に相当する。対してAI向けのデータセンターでは、約80MWの電力が必要とされるのだ。

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このSMRプロジェクトは、アマゾンが110億ドルを投じている2つの新規データセンタープロジェクトと同じルイーザ郡内に計画されている。同社が23年1月に発表した、40年までにバージニア州内のデータセンター建設に350億ドルを投じるというより大きな投資計画の一環だ(アマゾンはこのほかにも、ミシシッピ州で100億ドル、オハイオ州では78億ドルをデータセンター建設に投じる)。

同プロジェクトはルイーザ郡のシャーロッツビルとリッチモンドの間に位置し、世界的なデータセンターの中心地であるラウドン郡から車で2時間ほど南にある。ラウドン郡では280万平方メートル分のデータセンターが稼働中で、さらに46万500平方メートル分のデータセンターが開発中だ。

バージニア州はアマゾンにとって一大データセンター拠点ではあるが、同社のデータセンター事業の規模は巨大で、世界108地域にデータセンターを置いている。AWSはさまざまな経済活動に計算インフラを提供し、年間1000億ドル以上を売り上げており、この売上高はアマゾン全体より速いペースで急速に増加している。AWSの24年第2四半期の売上高の伸びは19%であったのに対し、親会社の同四半期の売上高成長率は10%だった。

AI活用で電力ニーズが160%増に

ゴールドマン・サックスの報告書によると、AIの活用によってデータセンターの全体的な電力ニーズは160%増となるという。その試算によれば、ChatGPTにひとつ質問をすると、グーグル検索の10倍近い電力が必要になる。また、ウォール・ストリート・ジャーナルによると、電力需要の急増により、これから電力を購入するデータセンター事業者のなかには、30年代まで待たなければ十分な電力は得られないといわれているところがあり、すでに期待していたよりも少ない電力しか供給を受けられていない事業者も出ているという。だからこそ、気候変動の問題を考慮しつつ、カーボンフリーであり、規模の拡大と縮小が可能で、24時間休まずエネルギーを生産できるSMRは理想的だとされるのだ。

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文=エイミー・フェルドマン 翻訳=木村理恵 編集=森 裕子

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