働き方

2025.05.20 10:15

狩猟採集時代より忙しい現代人の労働時間のパラドックス

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原始時代の人類に自由な時間はあったのでしょうか? 常に食料調達の不安にさいなまれ、狩猟採集にずっと追われていたのではないか、と想像するかもしれません。一方、スマートフォンとAIに囲まれた私たちは、石器時代の祖先より自由時間が少ないという逆説に直面しています。

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現代人に刻まれた労働観をあぶり出し、それにつけこむ「偽仕事」がどこにでも介在する実態を紹介し、生産性と充実度が高い働き方を提案するデンマークのベストセラーの邦訳版『忙しいのに退化する人たち やってはいけない働き方』(サンマーク出版)から、一部引用・再編集してご紹介します。


「定住」が生んだ過労と疲弊

考古学者によると、石の武器は機能的であるだけでなく、装飾的な特徴も有していた。そこからこんな疑問が生じる。石器時代の人たちは、つくったものに装飾をほどこす時間をいつ見つけていたのだろう?

この話には、どこか直感に反するところがある。誰もが知っているように、そもそも進歩とは、つらくて報われない過酷な狩猟採集生活を脱却して、安定した食料供給へと向かっていき、手に入れた余暇を楽しむ時間と空間を確保することにほかならない。

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何世紀ものあいだ、原始的な人類についてはそんなふうに語られていた。文明が進歩して人間が土地を耕すようになり、のちに産業革命が起こると、不幸な石器時代のつらく厳しい生活は、哀れみの目で振り返られるようになった。欧米では人類の進化は、石器時代の厳しい日々から、富と自由と余暇の増えた現在の快適な生活へと続く進歩のプロセスと見なされていた。

少なくとも1970年代まではそれが普通の理解だった。だがその後、今でも人類の祖先たちのように暮らす人々──カラハリ砂漠のサン族、熱帯雨林の先住民、シベリアの狩猟採集集団──を人類学者が研究し、かなり異なる結論にたどり着く。人類学者が観察した社会には、またおそらくわれわれの祖先の社会にも、食料と自由時間が驚くほどふんだんにあったのだ。懸命に働いて生き延びようとする石器時代の祖先という神話は、まさに神話にすぎなかった。

現代の古典になった論文でアメリカの人類学者マーシャル・サーリンズは、石器時代は「初源の豊かな社会(The Original Affluent Society)」だったとさえ結論づけている。サーリンズはその分野で影響力のある研究者で、地球上で最も原始的な社会について豊富な専門知識を持っていた。同業者たちもあとに続き、石器時代はさほど懸命に働かなくても食べ物をじゅうぶん確保できた時代だという彼の発見を裏づけた。

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文=デニス・ノルマーク、アナス・フォウ・イェンスン

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