AI

2025.05.14 11:30

AIの未来を左右する「ハードウェア」の重要性、大規模モデル化に欠けた視点とは

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ハードウェアへの賭け

シャオフォンが率いるシンハンレーザーは、高性能光学システムにAIを直接組み込む数少ない企業のひとつだ。半導体レーザーチップから高精度LiDARプラットフォームまで、同社は単なるプロセス自動化ではなく、プロセスに適応するシステムを設計している。シャオフォンは、「これは単なるオートメーションではありません。プロセス自体から学習して、リアルタイムで調整できるシステムを構築するのです」という。

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シャオフォンと同様にハードウェアの重要性を訴える声はほかにもある。ロイターによれば、米国上院の公聴会でOpenAIのCEOであるサム・アルトマンは、米国がAIで世界をリードし続けるために、データセンターやエネルギーシステムといったAIインフラへの投資が緊急に必要だと強調した。また、プリンストン大学で新しいAIチップを開発し、大幅に少ないエネルギーで強力なAIを動かす研究プロジェクトを率いるナビーン・ヴァーマ教授も、現在のAIチップがサイズや効率、スケーラビリティで壁に直面していると指摘している。

マッキンゼーが発行する「State of AI」レポートでも、AIによって最も大きな財務的リターンを得ている業界はクリエイティブコンテンツやチャットボットではなく、製造業、物流、サプライチェーン分野であるとされている。言い換えれば、現実世界で動くシステムだ。そこには必然的にハードウェアが求められる。

よりスマートな未来へ

こうした領域でディープテックは、モデル中心のAIに対抗するのではなく、その実現を支える存在だといえる。シャオフォンは次のように語る。「大規模モデルとハードウェアのイノベーションは対立する力ではありません。相互に補完し合います。一方が知能の限界を広げ、もう一方がそれを現実世界で生かすのです」。どちらか一方を無視すれば、システム全体が崩れてしまう。

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シミュレーション上では完璧に動くロボットが、実際の現場で失敗すれば、単に役に立たないどころか危険でもある。たとえば深さを見誤る手術用ツールや、風の乱れを読み違えるドローンなどがあれば、その被害は理論上ではなく現実世界で発生するコストとなる。

誇大広告ではなく、ハードウェアを

こうした未来を築くには、シャオフォンが言うように方程式のバランスを取り直す必要がある。AIの未来はPythonコードだけで記述されるのではなく、回路にはんだ付けされ、光学系を調整し、物理空間でテストされるものだという。

シャオフォンは断言する。「AIをスケールさせるには、計算資源やデータだけでは不十分です。インフラの整備、統合、そして現実世界に適合することが必要なのです。私たちは、AIが単に世界を分析するだけでなく、物理的に関わっていく未来を見ています」。

そうした未来において、ディープテックはAIを語る上での脚注ではない。その根幹そのものなのだ。

forbes.com 原文

翻訳=酒匂寛

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