インフラへの投資不足
資金の流れはまったく別の現実を物語っている。前述のベイン・アンド・カンパニーの報告でも明らかなように、ハードウェアやエッジシステム、組み込みAIなどを含むAIインフラへの投資は、2024年時点で全体の10%にも満たない。一方、ファウンデーションモデルと合成コンテンツツールが依然として大半の資金を吸い上げている。
シャオフォンによれば、ディープテックはベンチャーキャピタルの観点では不利になりがちだ。ソフトウェアのほうが構築が速く、デモもしやすく、方向転換(ピボット)も容易だからである。ディープテックの場合、長期的な研究開発サイクルや高い技術的不確実性、短期的成果の乏しさなど、投資家が嫌う要素が多い。
結果として、この分野の不足分を埋めるのは政府や一部の大手テック企業となる。テスラやエヌビディアが垂直統合型のAIスタックを自社で構築しているのは、コストが安いからではなく、そうしなければならないからだ。
実経済における制約
投資家だけが慎重になっているわけではない。工場や車両、病院など物理的な現場にAIを導入しようとすると、実際のコストが伴う。シャオフォンは、こうした障壁は単なる理論上のものではなく、多くの企業が今まさに取り組んでいる現実の課題だと指摘する。
シャオフォンは、「本当のボトルネックは技術ではなく経済なんです。センサーやレーザーモジュールのようなハードウェアは決して安くありません。統合やテスト、法規制への対応も時間がかかります。現在問われているのは『動くかどうか』ではなく、『十分に速く、十分に確実に動き、投資に見合うリターンを生むかどうか』なのです」と明かした。
彼によれば、工場ラインに知能を埋め込むコストは、単に新しいSaaSをリリースする場合よりはるかに高い。しかし、正しく実装できれば得られるリターンは大きく、しかも模倣されにくいという。


