サイエンス

2025.05.14 18:00

脳は真実より「物語」を求める 心理学者が明かす「偽りの結末」を避ける方法

New Africa / Shutterstock

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ミステリー小説を読んでいたのに、最終章が破れてなくなっていたらどう思うだろう? 疑問に答えが出ないまま放り出され、すっきりした解決もなく、歯がゆさが残るはずだ。これは、脳が結末を渇望している状態だ。

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人は生まれつき、結末や答えや意味を求めるようにできている。答えが完全に正しいものでなくても、それは関係ない。それどころか、私たちはしばしば、どっちつかずな状態に耐えられずに、一部しか事実でない説明や、完全なでたらめを受け入れてしまう。この現象は実に人間らしいものではあるが、時に私たちを、心理的な罠や不健全な関係性、間違った物語の内面化へと導くことがある。

それにしても、なぜ私たちの脳はそんなことをするのだろう? 

結末への渇望については、次のように心理学的に説明できる。

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1. 生存への近道としての「認知的閉鎖欲求」

人の脳が認知的閉鎖欲求を必要とするのは、単なる思考の癖ではなく、生存本能だ。初期人類の時代には、不確実性はしばしば危険を意味した。物音を聞いて、捕食者がいるのか、あるいはただの風なのかを瞬時に判断できなければ、命を落とすかもしれない。このため、脳は時間をかけた慎重な分析よりも、迅速かつ明確な結論を優先するように進化した。これが「認知的閉鎖欲求(Need for Cognitive Closure)」と呼ばれる現象だ。

私たちはまだ、こうした傾向を卒業できていない。現代においても、相手からメッセージの返信が来ないとき、私たちは辛抱強く待とうとしない。沈黙があるとき、マインドは、すぐさまそれを埋めようとする。「怒ってる。無視してる。私のことなんてもうどうでもいいんだ」──こうしたストーリーは、事実ではないかもしれないが、不安な心に対して、すがりつけるものを与えてくれる。曖昧な状況は私たちにとって耐えがたく、そのため、事実よりも確信を取ろうとするのだ。

2010年の研究から、認知的閉鎖欲求へのニーズがいかに強いものか、それがどのように実生活のなかで表出するかが明らかになった。同研究によれば、認知的閉鎖欲求へのニーズが高い人は、自分の仕事にどれだけ満足感を覚えているか次第で、状況に対して異なる反応を示した。仕事に不満がある人は、切迫感から行動を起こす傾向にあった。解決策を求め、情報を収集して問題解決にあたろうとしたのだ。一方、仕事に満足している人は、同じニーズに対して、変化を避ける形で反応した。

このことから、結末への渇望は、必ずしも明確さを求めてのものとは限らないことが分かる。重要なのはコントロールなのだ。結論に飛びつくにせよ、新しい情報を拒むにせよ、私たちの脳は、とにかく不確実性への扉を閉ざそうとする。

こうした条件反射をあらかじめ理解しておくことは、衝動を抑えるのに役立つだろう。沈黙はいつも拒絶とは限らない。すべての未完結の物語に、今すぐ結末を書き足さなければならないわけではない。知らないことを受け入れる姿勢を持つほど、好奇心と柔軟性をもって、真実に近づける。

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翻訳=的場知之/ガリレオ

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