パリのハイジュエラー、ブシュロンを率いて10年。ハイジュエリーイベントで来日したCEO、エレーヌ・プリ=デュケンに、屈指の名門メゾンが率先して取り組むチャレンジングな改革を聞く。1858年創業のブシュロンにとって、真のラグジュアリーとは?
ブシュロンは2025年1月のパリ・オートクチュールウィークで発表したばかりの新作ハイジュエリーコレクション〈UNTAMED NATURE(手つかずの自然)〉を日本でお披露目。これは元々VIP顧客やプレスに向けたイベントだったが、1日限定で特別一般公開したところ、予想を超える多くの入場希望者があり、会場は熱いため息に包まれた。
「ブシュロンは年2回、1月と7月に大きなハイジュエリーコレクションを発表しています。1月はメゾンの歴史やヘリテイジ作品を着想源としたクラシカルなもの、7月はクリエイティブディレクターのクレールが自由なクリエイションを繰り広げるカルトブランシュと呼ばれるイノベーティブなものと分けており、今回日本で公開したのは前者です。メゾンの創業者、フレデリック・ブシュロンから受け継いだ遺産のようなものですね」
〈UNTAMED NATURE〉は野に咲く草花や木々、小さな虫たちが驚くべきリアルさで仕立てられている。自然はメゾンにとってゆかりの深いテーマであり、写実性もまたフレデリックの時代の重要なスタイルだ。ツタ、アザミ、シダ、ハエ、マルハナバチ──そうしたモチーフを伝統的なハイジュエリーの技術に精通したブシュロンの職人たちのサヴォワールフェールにより、細部に至るまで本物そっくりに再現したという。
「伝統的に、ハイジュエリーは装飾芸術の一部と見なされます。美術館でハイジュエリーの展覧会が度々開催される理由も理解できますが、ブシュロンでは私たちの作るものを芸術作品としてではなく、ルックやスタイルの一部として身につけて楽しむべきものととらえています。私たちの願いは、ジュエリーが生き生きとして輝き、誰かの生活の一部となること。金庫に入れっぱなしにしてほしくはありません。ブシュロンで多くのハイジュエリーがマルチウェアになっているのは、それが理由です。顧客がジュエリーを何通りものつけ方で着用し、生活の一部として楽しむ可能性を最大限に高めたいからです」
新作にもブローチがヘッドジュエリーに、あるいはリングにと変化するピースが含まれる。これはブシュロンにとってはもうお家芸のようなものだが、その仕立ての工程は複雑で、高度な職人技が必要だ。昨年は6通りものつけ方があるネックレスも発表され、人々を驚かせた。
「創業者フレデリック・ブシュロンは常にイノベーティブな人で、守りに入ることがありませんでした。彼のヴィジョンに敬意を払うという意味においても、私たちはイノベーションを推進していかなくてはなりません。常に誰かのスタイルの一部であること。それは私たちが目指していることで、他のハイジュエリーブランドにはない魅力だと思っています」



