ファッション

2025.06.06 10:15

19世紀からずっと革新的な老舗ジュエラーが進む道

かつてフレデリック・ブシュロンが考案した最初の、留金のないデザインであるクエスチョンマーク形のネックレスは、当時としては目を見はるほど斬新なアイデアだった。新作においても、バラの木の枝が首まわりを取り巻き、ツタの蔓が肩を這い、フクシアが髪を伝って花を咲かす。身体を装飾する、というジュエリーの根本的な意義が、ここに追求されている。クラシカルでありながら、あまりにも大胆な一面も併せもつブシュロン。エレーヌが考えるラグジュアリーとは何だろう。

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「ラグジュアリーであること、それは品質の高さとクラフツマンシップ。非常に長い歴史があることと、永続性も大切です。けれど何よりも重要なのはエモーションではないでしょうか。感情に訴えかけるストーリーを物語ることこそ、私たちが目指すラグジュアリーであり、そのためにイノベーションはあるのです」

アーカイブより、1881年に制作されたクエスチョンマーク形の「リエール」ネックレス。
アーカイブより、1881年に制作されたクエスチョンマーク形の「リエール」ネックレス。

サステナビリティもまたラグジュアリーを構成する要素のひとつだ、と語るエレーヌ。ブシュロンが属するケリング・グループは、高いサステナビリティ目標を掲げてグループ全体で取り組みを続けていることでも知られる。

「ブシュロンにおいては、WHERE、HOW、WHOという3本の柱を大切にしています。WHEREは原材料をどこから得ているか。2020年、メゾンはすでに100%責任あるゴールドの調達を達成しました。またダイヤモンドについても、サリネ・テクノロジー社と提携することで、検証可能なトレーサビリティを可能にしています」

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現状、ダイヤモンドのトレーサビリティは主に婚約指輪用のセンターストーンのみになるが、今後はメレと呼ばれる小粒のダイヤモンドについても完全なトレーサビリティを目指しているという。検証の難しいメレの追跡も実現できれば、これは画期的なこととなる。

「次にHOWですが、これはビジネスをどのように行っているかを意味します。例えば、ジュエリーケース。以前はあまり持続的でない素材を使っていましたが、デザインを刷新し、接着剤すら使わずに、再生可能なアルミニウムとウールフェルトのみで作られた軽量なケースに変更しました。また、パリのヴァンドーム広場にある本店はBREEAM、銀座本店はLEEDという国際的なグリーンビルディング認証を取得しています。これもHOWのひとつです」

2023年に導入された新しいジュエリーケース。再生されたアルミニウムとウールフェルトを素材としている。
2023年に導入された新しいジュエリーケース。再生可能なアルミニウムとウールフェルトを素材としている。

そして3つめのWHOは、メゾンで働く人々に関するもので、インクルーシビティへの取り組みを指すという。エレーヌは社内に包括性の担当部署を設立し、エクゼクティブメンバーやマネージャーたちに対して研修を実施。若手に対して助言を行うメンタリングプログラムを開始し、彼女自身も参加した。

「メンタリングはこれまでは女性だけが行ってきましたが、2025年から男性もメンターとして参加できるようにしました。目指すところは男女平等な人間関係の構築で、女性が産休をとれるのと同様に、男性も育児休暇をとれるようにしました。いま、メゾンの男女比率は女性55%、男性45%。平等を維持するためには多くの取り組みが必要です」

エレーヌがCEOに着任したのは2015年。当時はヴァンドーム広場のトップジュエラーのなかで唯一の女性CEOだったが、この10年で男性優位のジュエリー界もさまざまに変わった。いや、変えてきた。

「私たちは常に長期的なヴィジョンを持っています。メゾンの世界観が顧客にしっかりと伝わるには、5年、10年はかかるものですよね。新しいプラットフォームと明確なストーリーでブランドをリセットしたことが、いま、やっと理解され始めたと感じているところです。私たちのストーリーテリングの旅は、まだ始まったばかりです」


エレーヌ・プリ=デュケン◎ブシュロンCEO。LVMH、カルティエ・インターナショナルを経て2015年より現職。

text by Keiko Homma

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