マーケティング

2025.05.09 13:30

エフェクチュエーション──予測に頼らない新しいヒット戦略

VectorMine / Shutterstock.com

エフェクチュエーションが活用された例としては、パイロットコーポレーションが開発した消えるボールペン「フリクションボール」がある。インク開発者の中筋憲一氏は、個人プロジェクトとして色が変わるインクという未開拓の技術開発に取り組んだ。しかし会社は用途がないと判断し商品化を見送ったため、彼は社外のパートナーを探した。すると、水が入ったときにだけ絵が浮かびあがるコップや、お湯に触れると髪の色がピンクになるメルちゃん人形に技術が使われた。

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生まれた資金で、書いた文字をこすると色が変わる技術の開発を進め、商品化に成功。売り上げが思うように伸びなかったが、欧州のグループ会社CEOから「書いた文字を透明にすることはできないか?」と相談をもちかけられた。欧州の小学生は、ボールペンや万年筆で書き取りをしていて、文字を消すのに透明にする溶液を塗っていた。乾かす時間が必要だったり、溶液を塗った部分はインクが消えてしまったりといった課題があり、それを解決するかたちで誕生したのがフリクションボールだ。インク開発技術という手もちスキルの活用や、社外でのパートナー獲得、グループ会社からの予期せぬ相談を通じ、累計30億本を売り上げる大ヒット商品が誕生した。

商品企画者が現場で実践するには、創業者を味方につけるのが効果的だ。やりたいことを創業者の描くビジョンや企業理念に沿ったものにすると、期待利益や目的の明確化をせずとも、まず実行してみようという合意が得られやすい。経営層と現場担当者にヒアリングをするのも有効だ。


吉田満梨◎マーケティング研究者。神戸大学大学院経営学研究科修了、東京都立大学などを経て2021年より現職。主著に『エフェクチュエーション優れた起業家が実践する「5つの原則」』(ダイヤモンド社)など。

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文=露原直人

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