マーケティング

2025.05.09 13:30

エフェクチュエーション──予測に頼らない新しいヒット戦略

VectorMine / Shutterstock.com

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市場調査や予測をしたところでヒットが生まれるとは限らない。画期的なヒット商品やサービスを生み出した人に共通するのは、「手持ちの資源」を生かす思考様式だという。

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先を読むのが難しい今の時代に通用する「ヒットの法則」とは何か。経営学者サラス・サラスバシーは、不確実な状況下で新事業を創出した起業家たちに5つの思考原則があることを発見した。それを解説した『エフェクチュエーション優れた起業家が実践する「5つの原則」』の著者である神戸大学大学院経営学研究科 准教授の吉田満梨に話を聞いた。


新商品や新規事業をつくる際、多くの企業は顧客ニーズや競合製品について市場調査をして不確実性を排除し、成功可能性を予測しながら戦略を立てる。しかし、成功した起業家は「手段主導」で行動することがわかった。今もっているスキルや人脈を起点に動き出し、パートナーとの出会いや相互作用によって、より大きく挑戦し、価値向上に向かっている。この思考様式は「エフェクチュエーション」と呼ばれ、不確実性の高い状況で有効だ。コロナ禍で先を見通すのが難しくなったことから注目されるようになった。

雪だるま式に大きな挑戦が可能に

エフェクチュエーションには5つの原則がある。これらは、「わらしべ長者」に似ている。貧しい男が観音様のお告げに従い一本の藁をもって旅に出ると、道中で出会う人々との物々交換を重ね、最終的に立派な屋敷を手に入れる物語だ。まずは、自分のスキルや人脈など手もちの資源を活用する「手中の鳥の原則」。次に自分の武器や弱みを熟知したうえで、失敗しても立ち直れる損失の範囲を決める。これを「許容可能な損失の原則」としている。

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さらに仲間のつくり方が「クレイジーキルトの原則」。一見クレーマーでも、仲間にすることでその知見が活用できる。その最たる例が、ソニーにクレームを言いに来ていた学生で、のちに社長になった大賀典雄だ。顧客やサプライヤーなどからフィードバックや知見を得ることでアイデアの実現可能性を検証できたり商品改良につながったりする。そして予期せぬ結果や失敗が起きたときには、それらを切り捨てずに生かそうとする「レモネードの原則」を活用する。

人生にとって酸っぱいレモンも砂糖を加えればおいしいレモネードになるという格言が由来。発想の転換でヒットは生まれるということだ。そしてこれら4つの原則を状況に応じて柔軟に活用することで実効性を高めていく「飛行中のパイロットの原則」が5つ目だ。これら5つを意識しながら行動することで、最初は小さな挑戦でも道中の出会いが大きな挑戦をもたらす。

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文=露原直人

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