ロシアが2014年にクリミア半島に影の軍隊を送り込んだ際、当時のバラク・オバマ米大統領は、欧州連合(EU)、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国の首脳と手を組み、ロシアに制裁を科した。参加国は共同で発表したハーグ宣言の中で、ウクライナの領土保全と独立を支持することを約束し、ロシア政府に警告を発した。「国際法は、強制や武力によって他国の領土の一部または全部を掌握することを禁じている。これは国際体制が構築されている原則に違反する」。その上で、参加国は「ロシアによるクリミア併合の違法な試み」を非難し、ウクライナの国境のいかなる変更も認めないと宣言した。
米政府は現在、ロシア黒海艦隊が駐留する戦略的な飛び地であるクリミア半島をロシアが併合することに対するハーグ宣言参加国による集団的な反対を断ち切る構えのようだ。この米国の突然の翻意は「危険な前例となり、他国の領土を奪取するための武力行使に関する既存の禁止事項を今なら問題なく無視できると、ロシアをはじめとする国々が信じるようになるだろう」と先述のディッキンソンは警告する。「国境の神聖性を放棄することは、何世代にもわたって私たちが経験したことのない大規模な戦争の新時代に入ることを意味する」
20年近くウクライナに在住しているディッキンソンは、ロシア帝国の再建をもくろむプーチン大統領の思惑について、次のように説明した。「ウクライナ東部と南部の現在の前線に沿って戦争を凍結させるだけでプーチン大統領が満足するだろうという考えは、ロシアの侵略の背後にある帝国主義的な動機を根本的に理解していない。プーチン大統領の帝国主義的野心はウクライナだけにとどまらない」。ロシアがウクライナに対して勝利すれば、「フィンランド、ポーランド、バルト三国を含むロシア帝国のかつての属国に対する侵略戦争」につながる恐れがある。
プーチン大統領の最終目標が旧ソビエト連邦の衛星国すべてを再征服することだとすれば、ソ連の支配から解放された後に北大西洋条約機構(NATO)に加盟した中欧の旧ワルシャワ条約機構加盟国にロシアの戦車と軍隊が再び押し寄せることになるだろう。NATOは、ソ連の核ミサイルから欧米の民主主義国家を守るために設立された。近年は、ロシアの国境を越えた軍事作戦の再開に対抗するため、加盟国が拡大している。


