人間老いるのは世界共通ですが、向き合い方や感じ方は日本人とドイツ人では国や文化の違いがあると、日独ハーフで日本在住28年のエッセイスト、サンドラ・ヘフェリンさんは言います。
たとえ豊かであっても、貯金がたっぷりあっても、「節約」に情熱を注ぐ――そんなドイツ人の「お金と老い支度」のリアルを、サンドラさんの著書『ドイツ人は飾らず・悩まず・さらりと老いる』(講談社)から、一部引用・再編集してご紹介します。
戦後のドイツで、馬糞を集めて食べ物と交換していた
私の友人のタニアさんの祖父は91歳。かつてはベルリンの大学病院のレントゲン科に勤めていました。リビングに飾られているのは、大学病院の外観を写した写真で、定年退職祝いのプレゼントだそうですが、タニアさんは首を傾げます。
「退職のお祝いに『建物だけの写真をプレゼントする』って、ちょっと謎よね……」
しかし今も目立つところに飾られているということは、祖父にとって仕事は誇りであり、生きがいであったのでしょう。
タニアさんの祖父は、東プロイセンの中心だったケーニヒスベルク(現在はロシアのカリーニングラード)で生まれ、ドイツ敗戦とともに現在のドイツ領に追放されました。祖父の父親、つまりはタニアさんの曽祖父は戦後に捕虜となり、5年もロシアの収容所で過ごしました。祖父は母親一人に育てられ、「貧しかった戦後のドイツで、馬糞を集めて食べ物と交換していた」と話してくれたこともあったそうです。
「おじいちゃんの生き方は、プロイセンそのもの」と言うタニアさん。ドイツで「プロイセン気質」と言えば、「地に足がつき、無駄遣いをせず、コツコツと真面目に働く性質」を指します。
「おじいちゃんの節約術」について、タニアさんはコミカルに話します。
「おじいちゃんはケチ。高齢だから今後のこともあって、家族はお金のこともいろいろと知りたいところだけれど、おじいちゃんは自分の貯金額を絶対に言わないの」
これは、高齢者によくあることです。「他人に資産状況を知られたくないから遺言書をつくらない」という人も多いと、あるドイツ人弁護士は語っていました。
そんなタニアさんの祖父母は高齢ながら、ベルリンから車で1時間ほどの村の一軒家で二人暮らしをしています。節約のために冬も暖房を入れずに「暖炉のある部屋だけで二人で過ごす」のだそう。
暖炉で燃やす薪は買ってくるのではなく、祖父が近所の森で切ってきます。自分で斧を持ち、木を切って薪にして暖炉に入れる……考えてみればすごい体力の91歳です。



