映画

2025.05.02 19:00

その日、経済の「当たり前」が崩壊した│映画「国家が破産する日」

「国家が破産する日」DVD発売中&デジタル配信中 発売・販売元:ツイン(c)2018 ZIP CINEMA, CJ ENM CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED

「国家が破産する日」DVD発売中&デジタル配信中 発売・販売元:ツイン(c)2018 ZIP CINEMA, CJ ENM CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED

トランプ大統領が4月2日に高関税政策を発表して以降、毎日のように世界経済の先行き不透明感が報道されている。4月中旬にはトランプは、海外への援助や国務省の予算の大幅カット、国連やNATOなど国際機関への資金提供をすべて打ち切る提案を出した。次々打ち出される”改革”によってアメリカは、あたかも世界経済の中心から退こうとしているかのようだ。

advertisement

トランプの目論見はさまざまに分析されているが、バブル崩壊後に30年不況が続いている日本が、今後再び世界的な金融危機や恐慌に巻き込まれる可能性がないとは言えないだろう。

もしそんな危機が迫った時、政府の迅速な対応やマスコミの正確な報道がなかったら、社会はどんな混乱に陥るだろうか。それを事実を元に描き出したのが、『国家が破産する日』(チェ・グクヒ監督、2018)である。

「国家が破産する日」DVD発売中&デジタル配信中 発売・販売元:ツイン(c)2018 ZIP CINEMA, CJ ENM CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED
「国家が破産する日」DVD発売中&デジタル配信中 発売・販売元:ツイン(c)2018 ZIP CINEMA, CJ ENM CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED

本作のモチーフは、1997年に企業の倒産と多くの自殺者を出した、韓国での未曾有の金融危機(IMF経済危機)。本国で260万人を動員する大ヒットとなったことからも、この危機が当時の多くの韓国国民に与えた計り知れない影響がうかがえる。

advertisement

話題を呼んだのは、当時の政府とマスコミの国民に対する情報隠蔽を痛烈に抉り出したばかりでなく、韓国政府が救済を求めたIMF(国際通貨基金)とアメリカの関係性まで匂わせる演出をしているためだ。おそらく、当時の韓国政府・マスコミだけでなく、過剰な投機が国境を越えて行き交うグローバル資本主義への批判を、事実にフィクションを混ぜ込むことで試みたものと思われる。

冒頭は1997年、著しい経済成長を遂げ、OECD(経済協力開発機構)への加入も果たし、国民の85%が中間層との意識を持つようになった韓国の都市の情景。次いで、場面はアメリカの投資銀行モルガン・スタンレーに飛び、トレーダーが顧客の投資家に「今すぐに韓国を離れろ」という一斉メールを打つ。

再度場面が韓国に戻ったところから、三人の人物のドラマが同時進行していく。一人目は、この経済危機に為す術もなく巻き込まれていく市井の人々の代表、食器工場を営むガプス(ホ・ジュノ)。二人目は、危機のムードをいち早くキャッチし、高麗総合金融の社員をやめてコンサル会社を立ち上げ大儲けを企むユン(ユ・アイン)。三人目は、海外の投資家の動きから国家の破産が迫っていることを察知し、財政局に働きかける韓国銀行の通貨政策チーム長ハン(キム・ヘス)。

韓国銀行の通貨政策チーム長ハン(キム・ヘス、写真中央) 「国家が破産する日」DVD発売中&デジタル配信中 発売・販売元:ツイン(c)2018 ZIP CINEMA, CJ ENM CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED
韓国銀行の通貨政策チーム長ハン(キム・ヘス、写真中央) 「国家が破産する日」DVD発売中&デジタル配信中 発売・販売元:ツイン(c)2018 ZIP CINEMA, CJ ENM CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED

展開はスピーディで専門的な経済用語も飛び交い、最初のうちは全体状況が掴みにくい。ポイントは、韓国の経済成長が海外との取引も国内でも、信用を元にした与信手形で行われていたということにある。

景気が順調であった頃はそれで良かった。しかし投資家たちが一斉に韓国企業から手を引いてしまえば、韓国社会は大混乱に陥る。企業は借金を返せず株価は暴落し倒産が相次ぎ、国家の信用格付けは落ちてウォンはみるみる安値となり、不動産価格も下落し失業者が大量に出る。実際、1997年の韓国ではここに描かれている通りのことが起こったのだ。

次ページ > あと一週間で国家が破産する

文=大野左紀子

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事