宇宙

2025.05.02 10:30

スマホが宇宙と直接つながる時代に、国内通信インフラを激変させる通信衛星事情

(C)Project Kuiper/Amazon

アマゾンはAWSを軸に軍用も

4月29日の打ち上げでは27機のカイパー衛星が軌道投入された。これはULA社のアトラスVにとって過去最大質量のペイロード。同ロケットの最大出力を発揮するため、固体ロケットブースター5基が搭載された(C)ULA
4月29日の打ち上げでは27機のカイパー衛星が軌道投入された。これはULA社のアトラスVにとって過去最大質量のペイロード。同ロケットの最大出力を発揮するため、固体ロケットブースター5基が搭載された(C)ULA

4月29日、ジェフ・ベゾス率いるアマゾン・ドット・コムが、衛星27機をフロリダ州から打ち上げ、同社の衛星コンステレーション計画「プロジェクト・カイパー」を開始した。 その初期フェーズにおいては専用アンテナを必要とする衛星インターネット・サービスが展開されるが、その後スマホとの直接通信サービスに参入するかは不明だ。スターリンクに対して大きく出遅れながら、眈々と計画を推し進めるその様相は不気味でさえあるが、それを可能にするのはアマゾンの豊潤な資本力であり、その目的は「AWS」の活用にある。

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AWS(Amazon Web Services)とは、アマゾンが提供するクラウド・コンピューティングを使ったサービスの総称。メディア、通信、製造業、小売業、教育機関などに関わる多くの企業が活用し、その主要顧客としてはNASA、CIA、Netflixなどが挙げられる。AWSには仮想サーバー「Amazon Elastic Compute Cloud」、ストレージ「Amazon S3」、データベース「Amazon Aurora」などが含まれ、目的別に特化された複数のAIのほか、IoTやブロックチェーンのサービスも提供されている。個人ユーザー数は未公表だが、法人顧客数は2025年時点で419万社(HG Insights公表値)。2020年からの成長率は357%を示し、クラウド・インフラの31%という圧倒的なシェアを保持している(Synergy Research Group公表値)。現時点では190以上の国と地域で活用されているが、アマゾンは衛星を介して、さらにこのシステムを広くつなごうとしている。

アマゾンが運用するカイパー衛星の意匠は公表されていない。同衛星はOISLと呼ばれるレーザー光による直接通信ネットワークを介して他機とつながり、地上の基地局を経ずに世界中にデータを転送する(C)Project Kuiper/Amazon
アマゾンが運用するカイパー衛星の意匠は公表されていない。同衛星はOISLと呼ばれるレーザー光による直接通信ネットワークを介して他機とつながり、地上の基地局を経ずに世界中にデータを転送する(C)Project Kuiper/Amazon

プロジェクト・カイパーのシステムでは、98の軌道面からなる高度590km、610km、630kmの軌道に3236機を配置する予定であり、第1フェーズ(630km)の578機が配備された時点でインターネット・サービスが開始される。これらの機体を打ち上げるためにアマゾンは、 今回の打ち上げ機を含めて92機のロケットを予約済み。そこにはグループ企業であるブルーオリジン社の「ニューグレン」(27回)のほか、競合企業であるスペースXの「ファルコン9」(3回)も含まれる。アマゾンはFCC(連邦通信委員会)から取得したライセンス上、2026年7月末までにその半数を打ち上げ、2029年7月末までにすべてを打ち上げる必要があるが、それは不可能と思われる。おそらく期限が延長されるとともに、サービスの開始は2028年以降になるだろう。

また、スペースXが米国防総省(DoD)をパートナーとして軍事用のスターリンク「スターシールド」を運用するのと同様、アマゾンは子会社(カイパー・ガバメント・ソリューションズ)を介し、防衛関連企業である「L3ハリス・テクノロジーズ」と提携している。L3ハリスが興味を示したのはAWSであり、アマゾンは今後、同システムを活用した軍用衛星コンステレーションも並行して開発することになる。

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編集=安井克至

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