さらにWriterは、OpenAIと比べてはるかに少ないコストで同様のAIモデルを実現している。OpenAI は、GPT-4の開発に1億ドル(約140億円)を投じたとされるが、Writerが開発した競合モデルの費用はわずか70万ドル(約1億円)だという。これは、中国のDeepSeekがOpenAIに匹敵するモデルを構築したとされる金額よりもさらに低い。「DeepSeekは効率性の重要さを示したが、Writerはそれをずっと前からやっていた」と、Writerの投資家で取締役を務める、トロント拠点のベンチャーキャピタル、Radical Venturesのロブ・トーズは語っている。
「AIの巨人」との戦い
しかし業界の一部の専門家は、WriterのAIモデルが大手に追いつけるかどうかに懐疑的だ。多様な質問への応答能力を基準にランク付けされる業界のリーダーボードにおいて、WriterのモデルはOpenAIやAnthropicなどのAI業界の巨人に後れを取っている。
OpenAIの法人顧客向けのツールのChatGPT Enterpriseには、200万人の有料ユーザーがいる。Anthropicは2027年までに収益が345億ドル(約4兆9000億円)に達すると見込んでおり、その3分の2が法人顧客だと報じられている。
「Writer最大の強みは、自社の取り組みをうまく伝えてきたことだ。しかし今後の課題は、技術がそのメッセージに見合ったものになるかどうかだ」と、あるベンチャーキャピタリストは語る。
だがハビブは、Writerのツールが十分に大手に太刀打ちできると自信を持っている。企業が重視するのはベンチマークでの競争よりも、現実の業務におけるパフォーマンスだ。Writerの顧客には、すでにアクセンチュアやヒルトン、スポティファイ、クアルコムといった大手が名を連ねており、投資家たちは、これからもハビブに賭け続けるつもりだ。「彼女は壁を突き破ってでも前に進み、不可能を可能にする人だ」とトーズは語った。
戦禍のレバノンからハーバードへ
ハビブによれば、彼女の起業家精神は家族から引き継いだものだという。戦争で引き裂かれたレバノンとシリアの国境地帯の小さな村で育った彼女の父は、自身で工具関連の店を経営し、母はピタパンのベーカリーで働いていた。8人きょうだいの長女であるハビブは、9歳で家計簿を管理するようになった。内戦を逃れた一家は1990年にカナダへ移住し、家族の中で唯一英語を話せたハビブは、2007年にハーバード大学の経済学部を卒業した。
ハビブはドバイで投資銀行に勤めていた頃に、共同創業者のアルシークと出会った。40歳のシリア人である彼は、最初の会社で衛星写真を車載ナビ用のデジタル地図に変換する技術を開発していたが、シリア政府から「愛国心が足りない」として接収されたという。彼は、その報復としてシリア政府のサーバーにハッキング攻撃を仕掛け、国内のインターネットを停止させたと語っている。


