帰国目前になって、ヒューマン・ライツ・ウォッチの代表の部屋に呼ばれた私は、代表の口から、思いがけない提案をされました。「東京に戻ったら、寄付を集めて、東京オフィスを立ち上げることはできないか。」
心の中で「えー!」と叫んでいました。勤め続けたいと願ってはいましたが、起業までは想定はしていませんでした。でも、こんなビッグチャンスは一生に一度、あるかないかです。初めから諦めるという選択肢はありませんでした。「ぜひやらせてください」と即決で回答していました。
その日から、私の頭は、ヒューマン・ライツ・ウォッチを日本に上陸させるというプロジェクト一色になりました。
財務部門からは、東京オフィスを立ち上げるためのファンドレイズの目標額は、毎年少なくとも2500万円、間接費も含めると本当は毎年4000万円必要、と知らされました。当時は今以上に、「人権」や「NGO」に対する社会の認知度も許容度も低い時代でした。高すぎる壁にため息でしたが、諦めるわけにはいきません。
帰国後、オンラインの保険会社を起業していた大学時代の友人、岩瀬大輔さんに相談したところ、彼を通じて、当時マネックスグループ株式会社の社長をされていた松本大さんを紹介してもらうことができました。
私の話を聞いた松本社長は、「私は人権の専門家ではないからできることに限りはあるけれど、個人としての応援ならできます」と言ってくださいました。叫びたいほどうれしかったのをよく覚えています。
松本社長は、知人も巻き込んで、支援の輪を広げてくださいました。そして、起業活動開始から1年半を経た2009年、ヒューマン・ライツ・ウォッチ東京オフィスを正式に立ち上げることができました。私は、弁護士はやめて、ヒューマン・ライツ・ウォッチの日本代表になり、今に至ります。
当初2名ではじめた東京オフィスも、今ではスタッフ10名近くに成長しました。日本の中で、そして国外で起きている人権侵害を止めるアドボカシー活動に専念できる毎日に、感謝しかありません。


