アート

2025.03.18 15:15

アレック・ソスの写真から読み解く「本当のアメリカ」。 心のバイアスはアートで外す

Sonya and Dombrovsky, Odessa from the series I Know How Furiously Your Heart is Beating ,2018 ⓒ Alec Soth(東京都写真美術館での展示風景を著者が撮影)

このコラムで政治的な意見は述べませんが、日本で私の周りにいる人達に聞くと、「ラストベルト」という言葉自体を知らない、または聞いたことはあるが具体的なイメージがないという方がほとんどで、ただ寂れた世界が広がっているという印象をもっている方もいました。

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つまり、アメリカ大統領選挙という日本の経済や社会に大きな影響を及ぼす地域について、我々日本人は「ほとんど見えていない」ということになるのです。

Home Suite Home, Kissimmee, Florida from the series Songbook,2012 ⓒ Alec Soth(東京都写真美術館での展示風景を著者が撮影)
Home Suite Home, Kissimmee, Florida from the series Songbook,2012 ⓒ Alec Soth(東京都写真美術館での展示風景を著者が撮影)

しかしソスの写真を見ると、経済や社会の数値、ニュースからはわからない、そこに住む人々の感情やリアルな感覚について、イマジネーションが広がっていきます。上の写真は、「SongBook」というすべてモノクロで撮影された写真集に収められた作品です。そこに掲載された作品の数々からは、人々の生活や土地の文化、宗教観、自然との関わり、個人の夢や希望といったものを垣間見ることができます。

ソスが撮る人々はときに笑顔で美しく、ときにシリアスで謎めいています。彼らから、どことなく本当のアメリカが見えてくるのです。

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現実を心に刻んだコンサルタント時代の苦い思い出

私には、10年以上前の大きな反省があります。当時の私はコンサルティングファームでパートナーという経営レベルの役職に就任したばかりで、ある消費財の大手クライアントと共に世界中の拠点を訪問していました。アメリカではニューヨークなどの主要都市を訪れた後に、オハイオ州のシンシナティに行く機会がありました。

その時は「ラストベルト」という概念も知らず、シンシナティにはP&Gの本社もあることから、他の大都市と同じような感覚で足を踏み入れました。すると、街の様子は想像とまるで違いました。

街は空洞化し、大きなチェーン店やレストランに行ってもお客さんが数人しかいないという状況を目の当たりにしました。ホテルのコンシェルジェに「素敵な場所を教えてほしい」と頼んだのですが、彼が自信満々で教えてくれた場所は都市開発の典型的な失敗例のような街で、半分以上の店でシャッターが下りていました。その辺りの店で売っていた品物は、日本の招き猫を模した置物など微妙なセンスのものが多く、治安も良くありませんでした。

筆者撮影:2014年のシンシナティ
筆者撮影:2014年のシンシナティ

帰国後、当時のアメリカ人の上司にシンシナティで私が受けた衝撃について話すと、彼は驚いたような顔をして「何を言ってるんだ、それがアメリカのほとんどの地域の現状だぞ」と答えたのです。自分がいかにアメリカという国を理想化しており、現実を見ていなかったのか、強く思い知らされた瞬間でした。

その後、南東部の保守的キリスト教プロテスタントの多い地域「バイブルベルト」にあるナッシュビルなどにも赴き、グレイビーソースがかかった巨大フライドチキンと、毎夜繰り広げられるロックンロールのライブの洗礼を受け、リアルなアメリカへの理解はより深まりました。

ソスの写真を初めて見たのは、2年前のこと。作品が強く胸に響いたのは、自分のなかに点在していたこうした過去の経験や思いが鮮烈に蘇り、つながったからだと思います。

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文=岩渕匡敦

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