「アスペクト比」という言葉がある。長方形における長辺と短辺の比率のことだ。映画の父とも言われる発明王トーマス・エジソンが採用したアスペクト比は1.33:1(4:3)で、これが映画における「スタンダードサイズ」と呼ばれることになる。
その後、ハリウッドの映画会社が1.66:1(あるいは1.85:1)の「ビスタビジョン」を開発。また2.35:1(12:5)と、長辺が2倍以上もある「シネマスコープ」も登場する。
現代ではこの横長のワイドスクリーンの作品が当たり前のようになっているが、あえて昔ながらのスタンダードサイズで撮影する映画監督もいる。
イタリア映画「ドマーニ! 愛のことづて」は、近頃では稀な全編モノクロームの作品で、冒頭ではこのスタンダードサイズの画面比が採用されている。
最初は白黒の見慣れぬ画面に戸惑うかもしれないが、ところどころにコメディ風の演出が差し挟まれ、画面サイズも変化して、物語の展開もある事件をきっかけに一変する。ラストシーンには素晴らしいサプライズも用意されており、観終わった後には、爽快な気分にも浸れる感動作だ。
イタリアでは観客動員600万人を記録
本作の舞台は、戦禍の記憶も醒めやらぬ1946年5月のローマだ。
主人公のデリア(パオラ・コルテッレージ)は、夫と3人の子ども、それに夫の父親である義父と半地下の家で暮らしていた。デリアが半地下の部屋から通りを覗くシーンは、ポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」(2019年)を思わせる。

デリアが目覚めると、夫のイヴァーノ(ヴァレリオ・マスタンドレア)からいきなり手を上げられ、冒頭から不穏な空気が漂う。どうやら夫の暴力は日常茶飯事のようだ。しかも偏屈な義父のオットリーノは寝たきりで、介護はデリアに任せられていた。

デリアは家計を助けるためにいくつもの仕事を掛け持ちしており、そのわずかな収入のなかから娘のために貯えもしていた。
そんな毎日を送るデリアの気が休まるのは、買い物のために外出して、市場で青果店を営んでいるマリーザ夫妻に会うときや、昔から彼女に好意を寄せている自動車工のニーノとささやかな会話を交わすときだった。
