──2025年は第2次トランプ政権の発足とともに始まります。それは国際社会・経済にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
マルクス・ガブリエル(以下、ガブリエル):25年は予測不能な年になるでしょう。経済学は他者の行動を合理的に予測する学問ですが、それはトランプ政権には当てはまりません。トランプだけでなくイーロン・マスクをはじめ政権入りする人々にはイデオロギーがない。さまざまな意図が錯綜するものの、それらを貫く思想がない。
トランプ政権の引き起こす「意図せざるコラテラルダメージ(付随的被害)」も、本質的に予測不可能です。自己愛の強い子どものようなトランプが気に入らないおもちゃを壊したときには周囲にダメージがあるかもしれないし、逆に新たな機会を生み出すかもしれない。アメリカ国民も、1期目をふまえてトランプがどのような人物であるかを理解したうえで、彼の引き起こすコラテラルダメージが吉と出る可能性に賭けたのです。
私には、かつてアトランティックシティでカジノ経営に失敗したトランプが、アメリカを巨大なカジノにしようとしているように見えます。諸外国は彼が胴元となるカジノに強制参加させられる、いわばカジノスタイル・ポリティクスに巻き込まれています。胴元は常に勝ちますが、プレイヤーにも勝ち目はある。賭けに参加しないという選択肢はなく、ただどのゲームに参加していくら賭けるのか、選択しなければなりません。
彼がNATOを守らず、高い関税を導入し、イーロン・マスクをはじめオリガルヒ(新興財閥)を優遇する結果、自由民主主義や法の支配が後退する。世界はそんな最悪のシナリオを想定しつつ、それが自国に与える影響を見きわめ、手を打つ必要がある。ヨーロッパなら独自の軍備を整え、経済の独立性を高めつつアメリカと対話を続けるという具合です。
──『倫理資本主義の時代』では、人類には「何をすべきか、何をすべきでないか」といった普遍的な道徳的事実が存在すると主張しました。ただウクライナやイスラエルの紛争など現実世界を見ると、人類共通の基盤を見いだすのは困難になっているようです。
ガブリエル:最初に普遍的な価値観を否定し、地政学的拡張主義を取ったのは毛沢東で、これは現在のプーチン大統領に通じる思想です。各国にはそれぞれのスピリットがあり、西側とは違うのだ、と。各国の独自性を重視するこうした「アイデンティティ・ポリティクス」は進歩に逆行します。進歩を測るにはGDP、女性参政権などの普遍的指標が必要ですが、この主義は指標を否定する。それが今や西側諸国にも広がり、普遍主義を凌駕しつつあります。トランプのみならず誰もがこのポリティクスを実践している。



