対立は「日本の国益」という可能性
米中対立は世界政治経済の分断や、世界経済の混乱を招き、国際政治、ジオポリティカル・リスクを高めるので好ましくない、と考えるのが多数派だ。これは、国際的な見地、経済の一般論としては正しい。ただし、米中対立、米ロ対立が日本に及ぼす影響については、事態の進展によっては、日本の国益にとってプラスに働くという考え方もある。それはどういうことか。
米中の関税引き上げ競争が続けば、中国は、輸出先としてのアメリカ依存をさらに低くする。そのため、中国は、日本、欧州、さらにG-Southの国に対して、値引きをしてでも輸出を増やそうとする。
さらに、政治的にも融和的な態度をとるようになるかもしれない。すでに、日本人の短期滞在ビザ免除を決めるなど、中国の「ほほえみ外交」の兆候が見られる。日本は、長年の日中間の懸案の解決の糸口をつかむ良い機会かもしれない。
仮に、第二期トランプ政権の厳しい対中姿勢が単にディールを引き出すだけである場合、中国が何らかの大きな経済的な便益をアメリカに供与することで、米中の「手打ち」が行われる可能性もある。またトランプ大統領が、ロシアによるウクライナ占領地域の永続的支配を容認するようなかたちでウクライナ・ロシア戦争を終結させ、対ロ制裁も終了させて、日欧がハシゴを外されることもありうる。このショッキングなシナリオに比べれば、米中対立が続くほうが、日本にとっては、よほど対処しやすいシナリオである。
日本としては、欧州やオーストラリアと連携しつつ、第二期トランプ政権の政策・戦略について、あらゆる可能性を頭に置いて、対処法をあらかじめ考えておくことが重要だ。2025年の国際貿易体制、国際政治体制、軍事的緊張は、危機的状況となる可能性もあるが、日本にとっては国益を発揮するチャンスになる可能性もある。
いとう・たかとし◎コロンビア大学教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D.取得)。1991年一橋大学教授、2002~14年東京大学教授。近著に、『Managing Currency Risk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、ほか。