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経済・社会

2025.02.10 15:30

政治の対立がもたらす意外な力学「日本の国益」という副産物:トランプの時代

Jonah Elkowitz / Shutterstock.com

ロシアからインドへの輸出は、21年から23年にかけて6倍になった。G-South諸国を、先進国でもロシア・中国でもないすべての国と定義すると、G7とG-Southの間の輸出入は両方向で13%伸びた。中ロからG-Southへ の 輸 出 は18 %、G-Southから中ロへの輸出は5%、そしてG-SouthからG-Southへは12%伸びている。これは対米輸出に高い関税を課された中国企業が、メキシコや東南アジアの国への投資を行い、そこで最終製品を組み立てたうえでアメリカに輸出する、いわゆる「迂回輸出」を推進してきたと考えられる。これまで日本や欧州の企業が主にコスト削減を目指して行ってきたことだ。

米中の関税引き上げ合戦は、日欧のみならずメキシコ、カナダ、東南アジアの国々から輸出に関税が及ばない限り、中国以外の国にとっては、むしろ、成長の好機をいうことになる。もっともこれにはトランプ氏も気がついて、第二期政権では迂回輸出も高関税の対象にしようとしている。

再びの「冷戦」その可能性

一方、ロシアのウクライナ侵攻は、西側諸国によるロシア制裁に発展したため、ロシアは中国やインドと政治経済的に接近した。貿易決済は人民元建てとするなど、中国の金融システムに依存するようになった。中国はさらに中東からの石油・ガスの輸入も人民元建てにするなど、人民元の国際化を進めている。

軍事的にも、中国は海軍の増強、核兵器の増産、宇宙進出と、確実にアメリカとの差を縮めている。また、中ロの艦艇が、日本列島周辺と共同運航(合同パトロール)を行うようになった。さらに北朝鮮がロシアに派兵して、北朝鮮兵士がウクライナとの戦闘の前線に派遣されている。北朝鮮と韓国が、きっかけはなんであれ、戦闘状態になるとロシア軍が朝鮮半島に来て北朝鮮軍とともに戦うということだろう。朝鮮戦争の再来である。

第二次大戦後40年以上も続いた「東西冷戦」が再び起きるのだろうか。今回の政治・経済・軍事の分断は、東西冷戦と3つの点で大きく異なっている。

第一に、貿易の分断とはいっても、まだまだ西側諸国の中国への輸出入、投資の依存が大きい。第二に、東西冷戦では、核兵器による相互抑止力はアメリカとソ連の間のものだった。現在では、中国の台頭、インド、パキスタン、北朝鮮への拡散により、核抑止力はより複雑な関係になっている。第三に、現在の西側諸国対中ロの対立を冷ややかにみるG-Southの国々が大きな経済力をもつようになっている。東西冷戦時にもインドやインドネシアが参加する「非同盟諸国会議」があったが、現在のG-Southは世界経済におけるウエイトが高く、西側諸国と中ロも無視できない存在となっている。G-Southをどう取り込むかが、西側諸国対中ロの対立の行方にも大きな影響を与えるだろう。
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文=伊藤隆敏

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