「ガストロノミーの力って大きいと思うんです。工業製品としてのお菓子業界はみなそこに注目している。自分ひとりで皿に盛り、お客様に出せるお菓子の量は少なくとも、それヒントを得た会社が流行を作ってくれるという可能性はおおいにある。プラントベースのクッキーやチョコレートを作れたらいいな、と。そこにこそ、私がやることの意味がある」
加藤氏が素材をプラントベースにおきかえているのは、地球環境の負荷をへらし、少しでも良い方向へ向かわせたいからに尽きる。
「普遍性のあるおいしさ」を目指して
そもそもバターがどうやって作られているのかご存知だろうか。殺菌後の牛乳を攪拌し、乳脂肪分を集めて生クリームにし、さらに攪拌して水分を抜いたものがバターである。牛乳全体の20%しか使われない。残りはホエー(乳清)として捨てられてしまう。ごくわずか、ホエーでクッキーを作るなどの実験もされているが、工業ビジネスとしては焼け石に水の状態であろう。加藤氏は「先人がバターを使ってつくってきたレジェンダリーなレシピは大切にしたいけれど、50年後には、フィナンシェが背徳的なお菓子としてしか残らないのではないかと思えてしかたがない」と、強く未来に危機感をいだいている。
そのとき、酪農家はどうすればいいのか。加藤氏の一つの答えが、なかほら牧場が行う山地酪農だという。自然豊かな山地を利用し、牛舎を作らずに、餌も自然の芝草などを自ら食べて育ち、繁殖も自然に行い、酪農家はその牛乳を収穫する。その牛乳の美味しさには誰もが驚く。収量は減るが、付加価値をつけて単価を上げることで生き残る。
加藤氏は、創り上げるデセールにおいて、「普遍性のあるおいしさ」を大切にしているという。それは、工業製品としての普遍性ではなく、人種を超えて、宗教を超えて、アレルギーも超えて、食物の記憶を超えて、だれもが食べられ、誰もが美味しいと思えるお菓子。
地球上のどんな人にも寄り添い、心温まる時間を創り出すことができるお菓子が合ったら素敵ではないか。こうした多様性の志向からも、加藤氏のプラントベースの研究は続いていく。