しかし、管理的雑務も多いホテルのシェフパティシエでは、自分のやりたいことが実現できないかもしれない。そんな思いも抱きながらいろいろな人に自分の思いを伝えていると、言葉が言霊としての力を持ち、資生堂パーラーの前々社長の耳に届き、ファロのパティシエに就任することが決まった。
ベジタルなお菓子をつくるようになったのは、ファロ側がコンセプトとして強いたものでもなく、偶然に志向が似ていたからだ。「日常から、ベジタルなダイエットをしているんです。肉も好きだし、友人と会ったり、親戚の集いで肉が出てくれば、食べる、でも、毎日食べる必要はないと、娘ともそういう食生活を送ろうねと、決めていたんです」と加藤氏。
では、なぜ、そうしたライフスタイルへ行き着いたのか?
それは、地球環境のことを考えた上での、彼女なりの結論にほかならない。日本で牛を育てるためには、飼料用穀物を輸入しなければならないが、その主な産地である南米などでは、牧草を育てるための水不足で紛争がおきたり、食料難で子供の健康に重大な影響がでてきていたりする。
そんな影響を与えてまで、毎日牛肉を食べ、牛乳を飲み、バターを使用したお菓子を楽しむ必要があるのだろうか。加藤氏は、そこに激しく問題点を感じてきた。ベジタルダイエットをし、製菓造りにおいても、牛乳に変わるものを求め続けてきた。そこで、植物性の油脂分の登場となる。
キッチンでR&Dを
プラントベースとは、動物性原材料ではなく、植物由来の原材料の食物全般を言う。例えば牛乳やバターの代わりに使うが、もともとが自然にある食材ではないから、菓子の製作工程で結着させたり、凝固させたりすることがとても大変で、多くは添加物を使うことにはなる。その結果、体に(地球に)いいものをつくるはずが、添加物を多用した、本末転倒なものが世の中には出回っているという現実もある。そこで加藤氏は、まったく添加物がない方向でできないかと、日々、ラボで素材の配合を1ml単位で量って試しているのだ。それこそが、冒頭の作業である。
「パイ生地づくりにおけるバターの代わりの材料を、カカオバターと植物油を混ぜて作るのですが、ml単位で生地の立ち上がり方が違ってきます。それを、飽きもせず、延々に繰り返している。R&D(Resaerch&Developemt)の世界ですね。私には街のお菓子屋さんよりもそういう研究のほうが向いているし、一職人として世の中の役に立てることが多いと思います。こうして自由に研究できる環境をファロに与えてもらって感謝しています」