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2024.12.16 11:00

33歳 元ラガーマンが3回泣いた すべての人に万博を「LET'S EXPO」物語

15年前の悔し涙が、今につながっている。観光に行きたくても行けない・諦めてしまっている方々が諦めなくてもよい未来を、来たる大阪・関西万博で実現したい。三菱UFJ銀行(以下、MUFG)などが運営する「観光・インバウンドの課題解決を目指すオープンイノベーション拠点」MUICに、熱い汗を流す青年がいる。



2010年1月5日、東大阪市の花園ラグビー競技場。第89回全国高校ラグビー大会の試合を終えた京都成章高校ラグビー部の部員たちが、ロッカールームで嗚咽していた。そのうちの一人、3年生の村上弘祐(むらかみ・こうすけ)は試合直前の怪我のために、試合中ベンチで仲間の奮闘を見守るしかなかった。ポジションはフォワードのプロップ。スクラムの先頭に立ち、敵と真っ向からぶつかる前線の要だ。

「自分が出ていれば、もしかしたら流れを変えられたかもしれない」

そう思うと、悔しさで涙があふれる。初の全国ベスト4に輝いた昨年に続く準決勝、今年こそ全国一に輝くことを目指し、一丸となって苦しい練習に励んできた。だが決勝進出をかけた東福岡高校との試合で、京都成章は67−12の歴史的大敗を喫し、花園を去った。そうして村上の高校ラグビーも、終わった。

「あのときは本当に悔しかったですね。でもラグビーを幼稚園から高校、大学まで、ずっと本気で取り組むなかで培った気力や体力が、今の仕事にも役立っているとよく感じます」

「この組織なら、自分の持てる力を“全振り”できる」

花園の敗戦から約15年後の今、大阪・淀屋橋に拠点を置くMUIC Kansai(一般社団法人関西イノベーションセンター)が進めるユニバーサルツーリズム事業「LET’S EXPO」のプロジェクトリーダーとして統括する村上は、笑顔で当時を振り返る。村上が新卒で入社した三菱UFJ銀行(MUFG)から、MUIC Kansaiへと出向したのは2022年のことだ。

「2014年に入行してから8年間は、兵庫県の西宮支店と東京の秋葉原支店、町田支店で個人・法人営業をやっていました。法人営業では最初、債権回収の仕事に就き、次に中小企業への融資業務等の提案、町田支店では上場企業も担当し、仕事のスケールは徐々に大きくなっていきました。自分の考えた提案が通って、経営者の方々の喜ぶ顔が見られるのがやりがいでした」

だが数年が経ち、仕事を続けるうちに、徐々に村上の中で「このままでいいのだろうか」という自分に対する問いが膨らんでいった。

「取引先の抱える課題が大きくなるにつれ、自分の持っている選択肢では解決できないことが増えてきたんです。銀行という立場上、提案できる取引の条件も厳格に定められており、助けてあげたくてもルール的に無理なこともありました。今思えば視野が狭かっただけですが、『MUFGのリソースが使えなければ、自分は何もできない』と思い込んでいたんです」
 
それでも自分自身の成績や評価につながればいいのではないか。ともすればそうした後ろ向きの思いが浮かぶ自分にも、誇りが持てなくなっていた。そんなときに突然、上司から「MUICという組織が関西にある。来週からそこに行ってほしい」と打診された。

「MUICについてまったく知らなかったので、週末にかけて調べました。非営利の一般社団法人で、観光・インバウンドの課題解決を目指すオープンイノベーション拠点であることはわかったものの、自分がそこで何をしたらいいのか、具体的なことはぜんぜん理解できないまま、とりあえず荷物をまとめて大阪に引っ越しました」

赴任して数ヶ月、MUIC Kansaiで働くうちに、村上は「この組織は、もしかすると銀行よりも自分のポテンシャルを発揮できる場かもしれない」と考えるようになった。数字に追われず、利益を追求しない組織であるがゆえに、取引先やサービスの利用者のためになることにより重きを置いて仕事ができると気づいたのだ。「この組織なら、世の中の社会課題の解決のために、自分の持てる力を“全振り”できる」。村上はMUIC Kansaiでの挑戦を探し求めるようになる。


万博に行きたくても行けない「35万人」をサポートしたい

2021年に立ち上がったMUIC Kansaiでは、その第一号のプログラムとして、村上の赴任直前に「リモート観光プラットフォーム」を事業化していた。コロナ禍で旅行に行けなくなった人々のために、映像と音声を通じて楽しめるオンライン旅行ツアーを提供するこの事業は、とくに高齢者施設で暮らす人々や、特別支援学校の生徒たちの間で好評を博していた。

「心身のハードルのせいで旅行に行けない人たちが、日本にはたくさんいる」

その現実を知った村上は、高齢者施設に足を運び、そこで暮らす人々にオンライン旅行ツアーを試してもらい、感想を尋ねてまわった。すると「若いときに夫婦で旅行した場所が見られて嬉しかった」といった喜びの声を多数聞くことができた。

「でも、『もう一度、実際に行ってみてはいかかですか?』と聞くと、皆さん口を揃えて『行きたいけど、もうこの体では無理だよ』と仰るんです。それで、ますます高齢者や障害を持つ方々に、思い出となる旅行の体験を届けられないか、という思いが募っていきました」

村上に大きな転機が訪れたのは赴任から1年後、2023年8月のことだった。介護施設向けに実際の旅行やオンライン旅行を提供しているスタートアップ企業、東京トラベルパートナーズの社長・栗原茂行氏と2人で打ち合わせをしていたときのこと。「これまで自分たちがやってきたことを、大阪万博に『行きたくても行けない人々』に提供すれば、すごくたくさんの人に喜んでもらえるのではないか」というアイディアが生まれたのだ。

東京トラベルパートナーズは、リモート観光プラットフォームをMUIC Kansai及び住友電気工業との協働で開発し、運営に当たっている企業だ。オンライン観光についてのノウハウはすでに十分にある。介護施設とのつながりや人的なネットワーク、心身が不自由な人への対応については、それまでの仕事で村上が経験と知見を積み上げていた。

「2024年の春頃に改めて大阪・関西万博に関するアンケートを取り、高齢者施設の方々に話を聞いてみると、55年前の大阪万博に行ったという方が何人もいました。

『小学生のときに遠足で行って楽しかった』『人混みがすごくて月の石が見られず残念だった』といった記憶をはっきり皆さんお持ちで、9割近くの人が『行けるものなら、今度の大阪・関西万博にも行ってみたい』という回答だったのです。

その頃、世の中的には大阪・関西万博に対してまだネガティブな報道が広がっている時期だったので、とても意外でしたが、回答を見て大阪・関西万博の運営会社と会話しました。運営会社がカバーしきれない部分があり、『自分たちがやるしかない』と決意しました」

そうしてスタートしたのが、村上がプロジェクトリーダーを務める「LET’S EXPO」事業だ。

「LET’S EXPO」では、身体に不自由を抱える人々も万博に参加できるように、リアル・バーチャル両面での支援を、万博会場の中と外で提供する。

万博会場に実際に行って楽しみたいという人のためにボランティアを組織し、車いすユーザーなどのサポートを行って、会場内をスムーズに巡れるように支援する。会場に行くのが困難な人たちに向けては、介護施設内の大型テレビや、自宅のテレビを通じてバーチャルツアーが体験できるサービスを提供する。介護施設や障がい者施設では、オンラインでのツアー体験がスムーズにできるよう、ボランティアスタッフが操作をサポートする体制も準備する。

高齢者施設での「リモート観光」実証実験も行った

高齢者施設で「リモート観光」の実証実験も行った

東京トラベルパートナーズの栗原と二人三脚だった体制は、いつしか住友電気工業に加え、日本最大級のボランティアプラットフォームを運営する日本財団ボランティアセンターや、医療・介護・福祉の分野で総合的地域医療を積極的に展開する医療法人愛仁会、プロジェクトデザインを行うkenmaやアドバイザーであるBlanketといった仲間を得て、大きく強いスクラムが組まれるに至った。

「大阪・関西万博の期間である2025年4月13日から10月13日までの半年間で、万博会場にリアルに参加する方々が1万人、バーチャルに体験する方々が34万人、合計で35万人の身体に不自由を抱える人々に、万博を楽しんでいただくことを目指します」と目標を見据える。

介護施設入居者を東京タワーへお連れするバリアフリーツアーに同行。観光バスの乗降をサポートする様子

介護施設入居者を東京タワーへお連れするバリアフリーツアーに同行。観光バスの乗降をサポートする様子

悔し涙を、嬉し涙にするために

プロジェクトリーダーである村上は今、ボランティアスタッフの募集から当日の安全安心な運営まで、全方位に気を配りながら「LET’S EXPO」の実現に向けた準備を進めている。

「学生時代から『自分はスポンジだ』と思ってラグビーをプレイしてきました。先輩でも後輩でも関係なく、学ぶべきと感じたことは、スポンジが水を吸収するように取り入れようとしてきたんです。いまの仕事でもそのことを良く思い出します。自分は介護についても、旅行についてもまったくの素人でしたから、とにかく聞くしかない。でも、そうやって周りを巻き込んで、一緒にやろうと協力を呼びかけていけば、すごく大きなことができると思うんです」

今の仕事でも上手く行かないこともあれば、必死で努力してもなかなか成果に結びつかないこともある。「涙もろいんです」と苦笑する村上は、MUICで働き始めてから自分の不甲斐なさに泣いたことも3回あるという。

「でも、悔しくて泣くほど本気で仕事に取り組めている今の自分が、嬉しいんです」

ラグビーのプロップはスクラムの先頭で相手チームのフォワードと組み合うとき、合計1トン以上の体重の男たちが前後から全力で押してくる力を、その体一つで受け止める。プロップには「柱」という意味があるが、まさにスクラムの柱として、チームが前に進んでいく力を支えるのが役目だ。かつて花園で悔し涙を流した33歳の村上は今、「LET’S EXPO」を柱として支え、来年の万博の会場で嬉し涙を流すことを目標に走り続ける。

むらかみ・こうすけ◎一般社団法人関西イノベーションセンター シニアマネージャー。LET’S EXPOプロジェクトリーダー。1991年大阪府豊中市出身。2014年に三菱UFJ銀行へ入行。法人・個人営業に従事。法人では大企業から中小企業までを担当。融資や財務/市場分析・事業承継・運用・外国為替業務等、個人では富裕層の資産承継や運用・ローン業務等実施。2022年に銀行に在籍しながら現職へ出向し、新規事業の創出に取り掛かる。課題抽出・チームアップ・企画立案・実証実験・社会実装までを支援。イベント運営にも従事。

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Promoted by 一般社団法人関西イノベーションセンター / text by Yutaka Okoshi / photographs by Tetsuo Masuda