摩天楼に育まれた自由でモダンなクリエイティビティ
世界的なジュエラーの多くはヨーロッパを拠点とする。現代の宝飾文化は欧州の王侯貴族によって生み出され、欧州にて発展したため、当然といえば当然だが、1932年にニューヨークで創業したハリー・ウィンストンは、世界的評価を得る数少ないアメリカンジュエラーだ。そのジュエリーは成功者やハリウッドスターなどに愛され、“スターたちのジュエラー”とも呼ばれるが、そんな同社の魅力のひとつが欧州の古典にとらわれない自由で現代的なデザインである。ブランド発祥の地をテーマとするニューヨーク・コレクションのグラフィティ・ブローチは、そんなハリー・ウィンストンの真骨頂ともいえる逸品。壁の落書き=グラフィティがモチーフであり、ポップなデザインの頭文字をパヴェダイヤで表現。現代のストリートカルチャーと伝統的なジュエリー技法が融合した、新感覚のハイジュエリーだ。またトラフィック・コレクションのリングは、碁盤の目のようなニューヨークの交通網がモチーフ。直線的な幾何学デザインと規則正しくセットされたダイヤにより、整然とした街並みが表現されている。街並みをジュエリーで表現するという発想そのものが、欧州の老舗ジュエラーにはない自由かつモダンなクリエイティビティを感じさせる。
伝統と革新を積み重ねるアイコンジュエリー
長い歴史を誇る老舗が多いジュエリーの世界。1858年パリにて創業したブシュロンもそのひとつだが、長く愛され続けるために必要なのは、希少な原石を確保する鉱山とのつながりや原石を無二のジュエリーへと昇華させる高度な技術力だけではない。伝統だけに固執せず、時代にマッチした新鮮な美を生み出す、現代的な感性も必須であろう。今年、誕生20周年となった「キャトル」は、まさにブシュロンの伝統を都会的でグラフィカルなデザインに昇華したコレクションだ。“Quatre”が意味する4とは、4つの伝統的デザインコード、グログラン、ダイヤモンド、クル ド パリ、ダブルゴドロンのこと。それらを絶妙なバランスで融合し、新しいジュエリーへ進化させたのがキャトルなのだ。なかでもブラックPVDを用いた「キャトル ブラック」は、モノトーンの輝きが都会的な雰囲気。4つのコードすべてをダイヤで表現した「キャトル ラディアント」には、高度な技術力と美的感性、そして先進性を感じさせる。
見る者を驚嘆させるクラフツマンシップの結晶
匠の技と膨大な時間を費やし、熟練職人がつくり上げるハイジュエリー。テクノロジーが進化した現在も、その大部分の工程はオートメーション化できず、職人のサヴォワフェール(匠の技)のみが生み出す世界であり続けている。そんなハイジュエリーの数々を世に問うてきたのが、1906年にパリにて創業したヴァン クリーフ&アーペルだ。1930年代のアーカイブから着想した「ブトン ドール」コレクションはその代表作である。“Bouton dʼor(ブトン ドール)”と名付けられたコレクションは、「パイエット」と呼ばれる伝統的なスパンコールがモチーフ。中央に小さなダイヤをセッティングした、貴石やゴールドのスパンコールで構成されている。円状のスパンコールは削り出すのも磨き上げるのも、直線的形状より高度な技術と長い時間を要する。そんなスパンコールを一点ずつ製作し、丁寧につなぎ合わせていくネックレスやリングには、職人の心血が注がれていると言っても過言ではないだろう。ゴールドにブラック、深みのあるグリーンのカラーリングは、丸みのあるスパンコールの形状も相まって、アール・デコのような普遍的美しさを感じさせる。まさに時を超越した美しさと価値を備えたハイジュエリーだ。
自然の美しさを至高のジュエリーへと昇華
人類が“美”に目覚めた太古の時代から、その手本は自然の造形であった。草木や動物を模倣することで、美を表現する術を身につけてきたのだ。ジュエリーはそんな美の表現が究極に進化したひとつの到達点である。なかでも1780年にパリにて創業し、実に240年以上の歴史を誇るショーメの創業者マリ=エティエンヌ・ニトは、“自然主義のジュエラー”を自称。創業時より自然の造形美と躍動感を題材に、時代ごとのスタイルのジュエリーを今日まで生み出し続けてきた。そんなショーメが現代に問う「ローリエ」コレクションのネックレスも、自然の美しさを至高のジュエリーへと昇華した逸品だ。古代ギリシャでは名誉の証しであった月桂冠の材料ローリエを題材に、風に揺れる葉をダイヤモンドとホワイトゴールドで瑞々しく表現。葉の造形は一枚として同じものがなく、今にも揺れ動きそうな軽やかさが伝わってくる。また「エピ ドゥ ブレ」コレクションのブローチは、豊作や大地の恵みのシンボルである麦の穂がモチーフ。麦の穂はショーメを寵愛したフランス皇帝ナポレオン1世の皇后ジョゼフィーヌが好んだ、ショーメに欠かせない題材でもある。ブラッシュ仕上げを施したイエローゴールドをベースに、麦の身をダイヤで表現。一粒一粒を立体的に造形する、精緻な技術力や写実的な表現力は見事である。