文化と経済の好循環
今、日本のカルチャーは世界中で大変な人気を誇り、インバウンド客も激増している。海外の人たちが日本文化のどんなところに注目しているのかについては、アドバイザリーボードの佐宗邦威によるコラムを参考にしてほしい。日本の職人たちが生み出す繊細な伝統技術に世界のラグジュアリーブランドも注目し、海外からの評価はさらに高まっている。しかし、その一方で、日本各地では職人の手によって受け継がれてきた伝統技術や洗練された工芸品などが、担い手不足や時代の変化に伴い、姿を消しつつあるのも現実だ。一度姿を消してしまったものは、もう取り戻すことはできない。
この現状を知り、なんとかしたいと立ち上がったカルチャープレナーたちもいる。プロダクトを通じて広く文化を伝えたり、伝統的な製品をアップグレードして新しい価値を生み出したり、地域にある資源を時代にあったかたちで活用したりとその手法はさまざまだ。
文化庁長官の都倉俊一はインタビューで、日本文化は歴史的に見ても「発見された文化である」と話す。さらに文化と経済の好循環を実現させるためには「カルチャー・ビジネス・トランスフォーメーション(CBX)」が必要であり「稼げるところでしっかり稼いで、文化全体の維持、修復、継承にお金を回す」。その担い手となるポテンシャルを秘めているのがカルチャープレナーたちともいえる。
こうした考え方から、カルチャープレナーの事例をなるべく多く紹介したいと考えた。そこで、30人の選出にあたっては、1. 文化資産や地域資源を掘り起こし、新しい価値やエコシステムをつくろうとしている人たち、2. 日本文化の価値を世界に伝えていくことができる新たなリーダーシップをもつ人たち、のどちらかに当てはまることとした。
また、評価軸としては、1. グローバルな活躍が期待できる、2. 地域産業やコミュニティへの貢献、3. 事業や取り組みが、社会問題の解決にもつながっている、4. 持続可能性への配慮がある、5. 商品がもつストーリーやつくり手への共感性を顧客に訴求できているか、をポイントにした。
このカルチャープレナーたちは、いろいろな角度から文化と経済を近づけようとしている人たちだ。まだ事業規模は小さいかもしれないが、そんな新しい起業家たちの存在や取り組みが、「カルチャープレナー」という呼称とともに広まり、それぞれに活動する彼らがつながる機会となればいい。
日本のカルチャープレナーたちが、異業種との結合や新たなニーズの掘り起こしによって大きなムーブメントになる可能性は大いにある。この特集がその一助となれば幸いだ。