マーケティング

2024.10.02 13:30

「ジョブズの教え」と初心者戦略、フェンダーCEOが明かす秘策

アンディ・ムーニー|フェンダー CEO

──ナイキやディズニーで重役を務めた経歴をもっている。過去の経験はフェンダーの経営にどう生きているのか。
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ムーニー:私がナイキに入社した1980年当時、同社は売り上げ4億ドル規模だったが、退社したときには100億ドルになっていた。当時のスポーツ用品業界は、今の楽器業界とよく似ていた。同じような業界の進化を目の当たりにしているという意味で、デジャヴのようだ。
 
ナイキでは2年間、財務に在籍して、その後の18年間は製品とマーケティングの道に進み、CMOとしてプロダクト・マーケティングの責任者を務めた。ディズニーでも常に製品に携わっていた。

また、個人としてもフェンダーに入社する前に、30本のギターを所有していたという点で、これまでのフェンダーのどのCEOよりも製品に精通していた。大企業での経験と、製品に関する消費者の目線をもち込むことができたのだ。

スティーブ・ジョブズの教え

2000年ごろのスティーブ・ジ ョブズ。アンディ・ムーニーの経 営やブランディングに対する考え 方は、ディズニー・コンシューマ ー・プロダクツ時代のジョブズと の出会いによって磨かれたところ が大きいという。

2000年ごろのスティーブ・ジョブズ。アンディ・ムーニーの経営やブランディングに対する考え方は、ディズニー・コンシューマー・プロダクツ時代のジョブズとの出会いによって磨かれたところが大きいという。

──経営者としての哲学はどこで醸成されたのか。

ムーニー:大きな出来事だったのは、ディズニーに入社して早々に、当時ピクサーのCEOだったスティーブ・ジョブズ(両者は作品を共同制作していた)と出会ったことだ。彼に会って最初にされた質問は、「優れたブランドとは何か」というもの。私は、「偉大なブランドとは、偉大な製品の累積効果だと思う」と答えた。彼は、その答えはいいねと言い、すべての製品はブランド・エクイティという銀行への預金か引き出しのどちらかになると付け加えた。彼の信念は「less is more(削ぎ落とされたもののほうが豊かである)」という言葉通り、一握りの製品をつくり、その一つひとつを最高のものにするというものだった。
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それが私の心に強く残った。フェンダーに入社し、製品ポートフォリオ全体を見たとき、フェンダーのエレキギターとアンプは、限りなくベストな状態で将来もそうあり続けると感じた。しかし、アコースティックギターやエフェクターに関しては、まだまだ改善の余地があると思った。そこで、ポートフォリオにあるすべての製品の品質レベルを高めることに着手した。
2019年に発売した、アコースティックとエレクトリックのハイブリッドギター「ACOUSTASONIC」。 両者の特徴を組み合わせた独自の仕様で、従来のギターにはない幅広いトーンを奏でられる。

2019年に発売した、アコースティックとエレクトリックのハイブリッドギター「ACOUSTASONIC」。両者の特徴を組み合わせた独自の仕様で、従来のギターにはない幅広いトーンを奏でられる。

例えば、アコースティックギターでエレキのサウンドも備える「ACOUSTASONIC」という新たなラインナップを導入した。今では、エフェクターにも誇りをもっているし、ギターを接続するケーブルやストラップに至るまで、すべてが思慮深く、よくデザインされ、機能的な製品となっている。
 
もうひとつ、スティーブ・ジョブズから学んだのは、より優れた製品をもっていれば、市場で2番手でも3番手でも構わないということだ。かつて、ノキアは携帯電話の世界的リーダーだったが、アップルの「iPhone」は非常に優れた製品で、それが今日の立場につながった。フェンダーに置き換えてみると、デジタル技術を使うモデリング・アンプ製品で私たちはかなり出遅れたのだが、23年10月に発売したデジタルサウンドプロセッサーの「Tone Master Pro」は、洗練されたUIで、このカテゴリーのマーケット・リーダーになると思っている。スティーブと共通する信念だが、製品に取扱説明書は決して必要ないのだ。iPhoneに取扱説明書はなく、すべてが直感的に操作できるようになっている。それが「Tone Master Pro」で実現したかったことだ。
2023年10月に世界同時発売した「Tone Master Pro」は、フェンダー初のデジタルサウンドプロセッサー製品。モデリング技術によって、一台で100種類以上のアンプとエフェクターの音色を表現することができる。

2023年10月に世界同時発売した「Tone Master Pro」は、フェンダー初のデジタルサウンドプロセッサー製品。モデリング技術によって、一台で100種類以上のアンプとエフェクターの音色を表現することができる。

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文=眞鍋 武 写真=長谷川ゆり

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