経済・社会

2024.09.14 12:15

日韓が第3国での自国民保護協力で合意、朝鮮半島有事と順番が逆なのでは

岸田文雄首相(Photo by Philip Fong-Pool/Getty Images)

日本が今、内々に保持している腹案は、米軍に全面的に頼る内容になっている。米軍は有事の際、ソウルを東西に流れる漢江の南側に複数の前線拠点を設ける方針だ。米軍は、兵員や装備を運んだ米輸送機が後方に戻る際、韓国にいる米国人を輸送する。席に余裕ができたときに、乗せてもらおうというのが日本側の考えだ。
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しかし、米側は拠点までは自力でたどり着くことを求めている。韓国は自衛隊が装甲兵員輸送車を派遣することを拒むだろうし、一両あたり10人程度しか一度に運べない。外務省によれば、23年10月時点で、韓国在留邦人は4万2千人余で、旅行者もいる。そもそも、北朝鮮軍が多連装ロケット砲やミサイルを撃ちまくっている状態で、外に出ることは自殺行為につながる。通信手段も途絶し、スマホで位置を確認するなどできない。韓国の軍事専門家は「堅牢な地下施設に水と食料、毛布などを常備し、10日間くらいは籠城できる態勢を取る方が現実的だ」と語る。日韓で協力して、こうした非常時の態勢について意見交換を進めて置く必要があるだろう。

こうした試みは、韓国にも利益になる。朝鮮半島有事が起きれば、韓国避難民や韓国軍機の退避や救護活動で日本は欠かせない受け入れ先になる。邦人退避を巡って日韓の信頼関係が壊れると、日本の韓国に対する世論が悪化し、協力が難しくなるのは想像に難くない。

岸田首相と尹大統領との間で日韓関係は急速に改善したが、韓国の野党勢力からは、過去の日本統治と結びつけて、日韓安保協力を非難する発言が続いている。日本が英仏豪などと進めている、燃料などの物資を融通し合う物品役務相互提供協定(ACSA)や、自衛隊と各国軍隊が相互往来を円滑にする協定(RAA)などを韓国と結ぶ動きも高まっていない。
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日米韓は最近、共同訓練を活発に実施しているが、日本や韓国の領域で実施されたことはない。日本側には「訓練の効率優先」で場所へのこだわりはないようだが、韓国側に「日本の領域での訓練に参加したら、韓国の領域に自衛隊を迎えることになってしまう」という恐れがあるようだ。

日本の視線は今、主に台湾有事に注がれているが、北朝鮮も相当に危なっかしい。「第3国での自国民保護協力」で悦に入っている場合ではないように見える。

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文=牧野愛博

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