人類の進化によるこういった「光害」に曝されながら生きる現代人。そんなわれわれが幸福度を向上させるため、つまり「本来の自分を取り戻し人間らしく生きる」ために、”「天文台」が大きな役割を果たし得る”と語る宇宙物理学者がいる。熊本県阿蘇郡の公開天文台、「南阿蘇ルナ天文台」次世代型天文台開発ディレクターでもある長井知幸博士だ。
長井博士に、天文台を利用した社会的処方「天文台浴」について、また、世界ではどのような取り組みが行われているかなどについて以下、ご寄稿いただいた。
真夜中の荒野で陥った大ピンチ
日本には数多く存在する公開天文台。学術的な天文台とは違って、一般のお客様を対象に星や宇宙を通して楽しく学んだり天体観測の体験を提供する施設です。今日はそんな気軽に立ち寄れる公開天文台で「天文台浴」をしようというお話です。現在熊本県の公開天文台「南阿蘇ルナ天文台」で仕事をしている私ですが、以前はアメリカで宇宙物理学者として観測を中心とした研究をしていました。
そんなアメリカに住んでいた頃の出来事なのですが、ある時シャーロン(女性)、ジョン(男性)と私の3人でサンフランシスコからソルトレークシティーまでロードトリップをしました。道のりは1200km程(おおよそ東京から熊本の阿蘇くらいまでの距離)あり、カリフォルニア州からネバダ州を横切ってユタ州に至る約12時間のドライブです。アメリカではこのくらいの長距離ドライブはめずらしくありません。広大な大地に真っすぐ伸びた広い道。数時間運転しても景色が殆ど変わらないような区間もあります。
ゴールであるユタ州のソルトレークシティーの手前までネバダ州を横切ってゆくのですが、当時そのあたりには百km以上に及ぶ商店もガソリンスタンドもない荒野を走る区間がありました。カリフォルニア州内でガソリンを満タンにしていましたが、私とシャーロンは途中ネバダ州に入ってすぐの小さなギャンブルの街リノ(Reno)辺りで、「この辺で給油したほうがいいよ」と提案しました。
しかし交代でネバダ州部分の運転を担当していたジョンは「大丈夫、大丈夫」と聞く耳を持ちません。
夕方にサンフランシスコを出発してからすでに10時間近く運転し、疲労も溜まっていた私達は、周りに全く車のない夜中3時のネバダ州の荒野のフリーウェイを淡々と走っていました。ところが砂漠の途中で車がプスプスっと停止。案の定ガス欠です……。
ソルトレークシティーまでまだ200km程(東京・静岡間位の距離)あります。もちろん携帯電話も圏外です。電話がつながるような小さな集落まではハーフマラソン程度の距離。ネバダ州の入口でなぜか給油を固辞したジョンはバツが悪そうにオロオロし、シャーロンは「Oh my God! I can't believe this is happening!(ああ、どうしましょう! こんなことになるなんて!)」とパニック寸前。とにかく次の集落まで歩いてロードサービスに電話をすることにし路肩に車を止めて貴重品だけ持って車の外へ出ました。