宇宙

2024.09.10 14:15

「光害」で天の川が見えなくなる? 宇宙物理学者が今『天文台浴』を勧める理由

真夜中の荒野のまっただ中に人工の光は一切ありません。しかもその夜は新月でした。トボトボと歩く私達3人を覆う月明かりのない乾燥した暗い空には、文字通り満天の星が「これでもか」と輝いていました。一粒一粒の星がギラギラと、まるで音が聞こえてくるように力強く自己主張しながら輝いていました。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』やゴッホの絵画『星月夜』を思わせるような星々……。
Alan Dyer/Stocktrek Images/GettyImages

Alan Dyer/Stocktrek Images/GettyImages

私達三人はピンチである状態も忘れて砂漠のフリーウェイの路肩をトボトボ歩きながら、ただただその美しい星空に畏怖と感動の念を抱いて強烈に心癒されたのでした。仲の良い3人でその経験を共有できたことも、感動体験をより印象付けた理由かもしれません。
 
結局15分くらい歩いたところでピックアップトラックの紳士が通りかかり、最寄りの集落まで乗せていただき事なきを得ました。

公開天文台で「天文台浴」をしよう

星空で心を癒やす・落ちつけると言えば、日本全国には数百もの「公開天文台」があります。公開天文台とは学術的な研究施設としての天文台とは違って、主な活動として老若男女の一般のお客様に望遠鏡や双眼鏡で天体を観察していただいたり、時にはプラネタリウムや写真などの資料展示を解説員の人たちと楽しみながら時間を過ごしていただく場所です。
 
日本で一番最初の公開天文台は1926年に開館した倉敷天文台とされています。約100年に及ぶ日本の公開天文台のこれまでの活動では、この様に生涯学習の機会提供や宇宙をテーマにした学びや体験を通して利用者の皆さんの視野を広げたりストレスを軽減したりといった「幸福度(ウェルビーイング)の向上」に資するような活動が行われてきました。
 
令和4年に約70年ぶりに博物館法が改正されました。それにより公開天文台が学術的な天文台と一線を画して「科学系博物館の一種である」という認識がここ最近広まり始めていますが、実はその活動そのものは当初より学術的というよりは博物館的であったと言えるでしょう。
 
そんな公開天文台で楽しくウェルビーイングの向上をしよう、という考え方は最近では「天文台浴」と名付けられ、調査研究と実践が進んでいます。実は、このような考え方は博物館や美術館ですでに、以前より「森林浴」ならぬ「博物館浴」として提唱されてきているもので、例えば九州産業大学の緒方泉教授を中心に、ストレス軽減効果などの実証研究が進められています。 
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これまでの研究結果は、ある条件下では明らかなストレスの軽減効果があるということを示しています。私が所属する南阿蘇ルナ天文台でも、緒方先生といっしょに「天文台浴」の効用を科学的に測定しようとする試み試みの準備を進めています。
 
※「九州産業大学x南阿蘇ルナ天文台」の実証実験については こちら

次に、その「ウェルビーイングの向上」について近年世界的に行われている変わった試みについて見てみましょう。
  
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文=長井知幸 編集=石井節子

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