もちろん、ウクライナ側が塹壕を完成させる前にロシア側が強力な反撃を組織できれば話は変わってくる。だが、ハルチェンコは「機会の窓は急速に閉じつつある」と警鐘を鳴らしている。ウクライナ側は、ロシアの増援部隊がクルスク州の前線に到達するのを妨害している。
エストニアの軍人で軍事アナリストのアルトゥール・レヒは、ロシア部隊の縦隊は「ウクライナ側の破壊・偵察グループやドローン(無人機)、砲撃に遭遇している」と解説している。
クルスク州に突き出た形でにわかに生じた戦線は、ロシアがウクライナで拡大して2年5カ月半たつ戦争の新たな主要戦線になるかもしれない。
ウクライナ軍はクルスク州と、隣接するウクライナ北部スーミ州方面に、すでに1万人超の兵力を配置している可能性がある。一方、ウクライナのシンクタンク、防衛戦略センター(CDS)の11日の作戦状況評価によれば、ロシア軍の北方軍集団は10〜11個の大隊をクルスク州の戦線に移しつつある。総勢4000人規模と考えられる。
もっとも、これら10個ほどの大隊はあくまで初期の投入兵力だろう。北方軍集団の総兵力は書類上4万8000人となっている。その多くは、ロシアが5月に始めたウクライナ北東部ハルキウ州への越境攻撃の中心地、ボウチャンシクで足止めされている。
ロシア軍はボウチャンシク方面で前進を断念すれば、かなりの兵力をクルスク方面に移せるだろう。というより、このようにほかの戦線のロシア軍の兵力を削ぐことこそ、ウクライナ軍による今回の侵攻作戦の最大の目的かもしれない。
フランスのニュース専門局「フランス24」のエマニュエル・シャズ記者はウクライナの情報筋の話をもとに、ウクライナ側はおそらく「ウクライナ東部からロシアの注意をそらさせたり、ロシアの兵力を分散させたりする」狙いだろうと語っている。
塹壕が完成すれば、この牽制は永続的とは言わないまでも長期的ものになりそうだ。
(forbes.com 原文)