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2024.08.20 08:00

「水からリチウムを生成」、廃水処理のユニコーンGradiantの野望

Gradiant 共同創業者 Prakash Govindan (左) ・ Anurag Bajpayee(中央)

電気自動車(EV)の普及には大量のリチウム電池を必要とするが、リチウムの採掘には莫大なコストがかかる上、環境汚染を引き起こす。廃水分野のユニコーン企業Gradiant(グレイディアント)は、より良いリチウムの抽出方法を実証するため、新会社を立ち上げた。

「リチウムに対する需要は、とてつもなく大きい。我々は、リチウム事業だけで10億ドル(約1473億円)規模の会社を作れると考えているが、まだ収益化の初期段階にある」と、グレイディアントの共同創業者で最高執行責任者(COO)のプラカシュ・ゴビンダンは述べている。

工業廃水の浄化を手掛ける同社は、alkaLi(アルカリ)と言う名称の新規事業をスピンアウトした。アルカリは、鉱石を採掘する代わりに、かん水(自然に存在する極めて塩分濃度の高い水)からリチウムを抽出し、独自技術を用いてバッテリーに使用できるよう加工することを計画している。ゴビンダンによると、アルカリはグレイディアントを含む投資家から1500万~2000万ドル(約22億~32億円)を調達し、将来的にCEOを採用する予定という。

グレイディアントの中核事業は工業廃水処理であり、半導体大手のTSMCやマイクロン、製薬メーカーのファイザーやGSK、コカ・コーラ、鉱業会社のリオ・ティントなどを顧客に抱えている。同社は、ビリオネアのジョン・アーノルド率いるケンタウルス・キャピタルを含む投資家から累計で4億ドル(約588億円)以上を調達しており、評価額は水に関するテクノロジー分野のスタートアップとしては珍しく、10億ドル(約1473億円)の大台に乗った。

昨年の売上高は1億5000万ドル(約220億円)で、今年は3億5000万ドル(約515億円)に達する見込みだ。ゴビンダンによると、リチウム事業は現在4社の顧客を持つが、その収益はグレイディアント全体の10%にも満たないという。

40歳のゴビンダンと、CEOを務める39歳のアヌラグ・バジパイは、マサチューセッツ工科大学(MIT)の博士課程在籍中に行った水浄化の研究をもとに、2012年にグレイディアントを設立した。同社は、「永遠の化学物質」と呼ばれるPFAS(有機フッ素化合物の総称)やリチウムを水から除去する処理で1000件以上の実績を持ち、油田サービス大手のSLB(旧名シュルンベルジェ)と共同でリチウム事業を立ち上げた。グレイディアントの株主でもあるSLBは、2023年にネバダ州の施設でパイロット・プロジェクトを立ち上げた。
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編集=上田裕資

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