そのような特別なシャンパーニュを生み出すアンボネイは、特級格付けの村で、シャンパーニュ随一のピノ・ノワールが育つ場所として名高い。石灰質土壌の南向きの斜面の畑からは、ふくよかで繊細、そして長期熟成が可能なワインが生まれる。
ジュリー氏はこのワインについて、「黒ブドウのピノ・ノワール100%で造られ、力強く、ボディの厚みがありますが、決して重すぎません。区画の土地の個性やシンギュラリティ(特異性)を表現していますが、このワインを特別にしているのは、場所だけではなく、収穫日や醸造方法など私たちが行う選択、全てです」と語る。
クリュッグにとって重要なこのアンボネイ村の畑に隣接する場所に、2024年4月、新しい醸造施設が完成した。創業者の名から「ヨーゼフ」と名付けられたこのワイナリーは、創業時からの理念や伝統を受け継ぎ、大事にしていることを示唆するとともに、クリュッグの将来を見据え次世代のために作られたことを感じさせる。 総床面積約9500平米の2棟から成る大きなワイナリーで、構想から7年をかけて完成した。建物はHQE(高環境品質)認証を取得し、建設に際しても、環境になるべく負荷をかけない資材が選択されるなど、サステナブルの観点を盛り込んで作られている。また、重い樽を動かす負荷を減らす装置を開発するなど、働く人にも最大限の配慮がなされている。
実務面においても、醸造家チームが設計の段階から関与し、最新の設備を導入し、より高品質で正確なワインを造る環境を整えた。クリュッグでは、全てのワインが古樽で醸造されるが、その数は4300にも上る。これらの樽は、温度・湿度がそれぞれ徹底管理された8つあるバレルルームに保管される。
2024年の収穫からこの新ワイナリーでのワイン醸造が始まる。こうして、クリュッグの長い歴史にまた新たなページが加わった。創業者の精神を忘れないワイナリーから今後どのようなワインが生まれてくるのか、楽しみに待ちたいと思う。
島 悠里の「ブドウ一粒に込められた思い~グローバル・ワイン講座」
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