若き兄弟がかじ取りをする「ノルケイン」は、情熱を推進力に未来を見据える。
「Watches & Wondersは、僕らにとって“時計界のチャンピオンズリーグ”。今からワクワクしているよ」。スイス時計ブランド「ノルケイン」のバイスプレジデント、トビアス・カッファーは、昨年末に来日した際に行われたフォーブス ジャパンのインタビューにて、こう語った。Watches & Wondersとは今年の4月にジュネーブで開催された高級時計の見本市のことで、多くの老舗ブランドと肩を並べるように、ノルケインは今年から参加している。
「サッカーのチャンピオンズリーグの場合、メガクラブだけでなく小国の知られざるチームにもチャンスがあって、皆が応援してくれる。ノルケインは2018年に創業した若いブランドですし、会社の規模から考えるとかなり大きな投資になりますから、イベント初日は多少は緊張しました。しかし2日後には、ここが私たちの居場所であると確信しました」と、再来日したトビアスは語る。
会場では各ブランドにスペースが与えられ、その中に新作のコンセプトに合わせたブースをつくり上げる。ノルケインのテーマは「ベースキャンプ」。これから頂を目指すうえで、まず何を考えているかをしっかり見てもらおうというメッセージだ。
「我々のスペースは決して大きくないのですが、それでも毎日、毎時間、人であふれかえっていました。時計販売店やジャーナリストだけでなく、スイスの時計関係者もブースを訪問してくれましたし、スタッフも私もノンストップで働き詰めでした」
しかしトビアスは嬉しそうだ。あまりにも多忙すぎて、ほかのブランドを視察する時間は90分のみ。そのため他社から何かを吸収する余裕はなかったようだが、それでも問題ないだろう。彼らは自分たちの信じた道を進むだけなのだ。
ノルケインは新興ブランドではあるものの、その情熱は本物であるだけでなく、それを支えるバックボーンがある。トビアスは時計製造会社の一家に生まれ、ノルケインCEOを務めるベン・カッファー(トビアスの実兄)はブライトリングで要職を担っていた。
また彼らの時計づくりに対する情熱に賛同した時計界の大物がメンターとなり、例えば、ウブロの元会長であるジャン-クロード・ビバーはノルケインの取締役会のアドバイザーを務めており、ブライトリングの副社長やムーブメント会社ケニッシの役員を務めたジャンポール・ジラルダンは、ケニッシ社製ムーブメントを使用するための筋道をつくってくれた。歴史は短く規模は小さくとも、かなり目立った存在になっているノルケインは、いうなれば「時計界の“スモール・ジャイアンツ”」になりつつあるということではないだろうか。
「スモール・ジャイアンツ……。素晴らしい言葉ですね。私たちのブランドは確かに小さく、いつでもチャレンジャーです。しかし私たちが行うすべてのことは長期的なビジョンに基づいています。私たちのように情熱的に一生懸命働けば、“スモール・ジャイアンツ”な存在になれると、100%信じています。しかしそこにたどり着くために、無理に急ぎたくはない。時間をかけて一歩一歩、物事を進めていきたい。そして、5年後、10年後まで続けていけば、ビジョンや目標は達成できると信じています」
実はスイス時計業界は、中国市場の後退やスイスフラン高の影響で、輸出量が減少している。先行きはさほど明るくないと業界筋は見ているが、ノルケインはそれを恐れることはない。
「我々のブランドは2018年に始まりましたが2020年からコロナ禍になり、さらに戦争も起きた。短期間で多くのことが起こりましたが、私たちは常に挑戦してきた。危機はチャンスでもあるのです。新作は、新アンバサダーであるスイス人テニスプレイヤー、スタン・ワウリンカとのパートナーシップを結び、人気モデルのワイルド ワンに鮮やかなカラーを施しました。これもひとつの挑戦です。そして日本市場で成功を収めることも挑戦。日本ほど時計への愛や情熱をもっている愛好家が多くいる国はありませんから、ここで認められたいのです」
信念を貫き、着実に前進する。その先には必ず、“時計界のスモール・ジャイアンツ”への道が開かれる。
ノルケイン・ジャパン
https://norqain.com
トビアス・カッファー◎NORQAIN (ノルケイン)バイスプレジデント。1990年、スイス・ビエンヌ生まれ。スイスの高級時計製造会社を営む一家に生まれ、2013年にルイ・エラールに入社して時計業界でのキャリアをスタート。様々な時計ブランドにて、主にセールス部門でキャリアを積み、 2021年の5月から現職。来日は2度目。