2024年で6回目を迎えた「RISING STAR AWARD」。本アワードはForbes JAPANの名物企画「日本の起業家ランキング」の登竜門として位置づけられ、過去出場者の多くは大型の資金調達を実現するなど、飛躍を遂げている。
24年度では協賛企業のサッポロ不動産開発より、同社が管理・運営する開業30周年を迎えた恵比寿ガーデンプレイスの新ブランドコンセプト「はたらく、あそぶ、ひらめく。」にちなんだ特別賞が創設され、米国カーネギーメロン大学、東北大学発のスタートアップ企業であるFingerVisionが受賞した。
「はたらく、あそぶ、ひらめく。」新コンセプトに込めた想い
刷新した恵比寿ガーデンプレイスのブランドコンセプトについて、サッポロ不動産開発 取締役専務執行役員の福原真弓(以下、福原)は次のように話す。
「30年前は仕事と遊びが明確に分かれていましたが、今やその境界は曖昧に溶け合っています。恵比寿ガーデンプレイスはオフィスや商業施設などを擁する複合施設です。オフィスから一歩外に出ると広い空が広がり、美術館やブルワリーなど非日常の楽しみがすぐそばにあります。イノベーションを生み出そうとする企業の皆様に、仕事と遊びがシームレスに交ざり合うからこそ、クリエイティブなひらめきが生まれるという恵比寿ガーデンプレイスならではの価値を提供していきたいと考えています」
特別賞の設立に関しても同社の思いは一貫している。新しいブランドコンセプトに基づき、革新的なアイデアをもって世界に挑戦するスタートアップ企業を応援するため本アワードへの協賛を決めた。
「視触覚センサ」を社会実装するFingerVisionの挑戦
FingerVisionは、「画像(カメラ)をベースに触覚を再現する」というユニークなコア技術を有し、あたかも人が「手」の感覚を使って物体を扱うような制御をロボットで実現している。「視触覚センサはあらゆる分野で活躍できるポテンシャルを秘めた技術です。最初の主戦場として選んだ食品業界では人手不足が大きな課題となっていますが、視触覚センサを使えば、つぶれやすい食品や重さや形の違う食器も、人間の手が握力を調整するようにつかむことができる。事例として、食器洗浄工程の自動化を目指している吉野家ホールディングスとの共同開発があります。この技術開発により従業員の労働負担を軽減し、業務効率の向上を実現しています」(濃野)
代表取締役社長の濃野友紀(以下、濃野)は工学系の大学で修士号を取得。卒業後は外資系コンサルなどに従事していたが、大学時代に抱いていたある思いを忘れられずにいた。それは「大学発の技術が社会に実装されないジレンマ」だ。
技術が価値を生むには社会課題との正しいマッチングと、課題解決までの実行力が必要だと濃野は考える。理想の産学連携を実現すべく情報収集をするなか、工学博士の山口明彦が開発した「視触覚センサ」を知り、広範な業界の社会課題解決に役立つと確信。21年、山口とともにFingerVisionを設立した。
「多くの大学発スタートアップでは、大学のもつ高度な技術がアイデンティティになります。しかし技術はあくまで手段であり社会実装して価値を生むことをゴールにしなければならない。我々は技術者が現場に足を運び、声を聞き、迅速にプロダクトを改善することを強みとしています。イノベーションに近道はありません」(濃野)
本アワードでも「愚直にユーザーニーズに向き合うことで、本当に必要とされる価値を提供できる」と語った濃野。顧客の声を重視し、真摯にプロダクトを研さんする姿は、審査員の胸を打った。
ものづくりのDNAが共鳴した愚直な努力と“感性の刺激”
サッポロ不動産開発がFingerVisionを評価した理由はアイデアだけではない。そこにはものづくりのDNAの共鳴があった。親会社であるサッポロホールディングスは、1876年設立の開拓使麦酒醸造所、87年設立の日本麦酒醸造会社を起源とする。89年には現在の恵比寿ガーデンプレイスの地にヱビスビール醸造場を竣工した。「食品へのさまざまなニーズに技術で応える難しさはとても理解できます。だからこそ、FingerVisionのユーザーニーズに向き合う姿勢に深く共感しました。素晴らしい技術力をもとにしつつも、お客様からのフィードバックや現場での刺激を受けてイノベーションを生み出すというのは、オンとオフが融合することで新しいひらめきが得られるという恵比寿ガーデンプレイスのブランドコンセプトに通じるのではないかと思います。FingerVisionのような企業にさらなるブレイクスルーが起きるよう応援していきたい」(福原)
福原の言葉を受け、濃野は自社が現場で得ている感性の刺激を強調した。
「現場でインスピレーションやフィードバックを得なければ技術は最適化されず、中途半端な価値しか生まれない。技術に圧倒的な自信があるからこそ、技術一辺倒で価値を生み出そうと考えず、あくまで社会の変革をゴールとする価値観を社内で徹底しています。そして今回の受賞により、ただ目前の課題にまい進するのではなく、遊び心や、心にゆとりをもつことで新たなひらめきが生まれるのだとあらためて感じました」
FingerVisionは海外や他業界、そして産業連携の未来をも見据えている。
「世界に誇れる日本の食文化『お弁当』の技術をパッケージ化し世界に輸出したい。また、医療や素材開発への可能性も感じています。私個人としては大学発の先進技術を社会に広く浸透させることに生涯取り組むつもりです。成し遂げたいことはまだ1%も実現できていません。これからも挑戦を続けます」
同社の技術が多くの社会課題解決の糸口となったとき、彼らの歩む道は大学発スタートアップのロールモデルとなるだろう。濃野の展望を受け、福原も激励を送る。「FingerVisionのようなスタートアップを応援することは、我々のブランドコンセプトの体現につながります。これからも強い思いと高い技術をもつ企業をサポートし、共に成長していきたいと思っています」
恵比寿ガーデンプレイスでは30周年記念として、当所のオフィスワーカーを中心としたイベントを開催。企業が交流できる場を設けることで、新たなアイデアやビジネスチャンスの誕生を促している。
時流をとらえ、コンセプトを新たにした恵比寿ガーデンプレイス。FingerVisionのように、刺激をひらめきに変え、社会に新しい価値を生み出すスタートアップが、さらなる飛躍を遂げる場となることに期待したい。
サッポロ不動産開発
https://www.sapporo-re.jp
のうの ゆうき◎名古屋大学工学研究科修士卒業後、ボストン・コンサルティング・グループで産業財セクターやテクノロジー/デジタルセクターを担当し、多数のプロジェクトに従事。21年に代表取締役社長としてFingerVisionを創業し、視触覚センサ技術の社会実装に取り組む。
ふくはら まゆみ◎サッポロビールに入社後、総合企画部やワイン事業部、人事総務部などで活躍。16年にサッポロホールディングス取締役、22年にサッポロビール取締役常務執行役員、23年にサッポロ不動産開発 取締役専務執行役員に就任。
スタートアップを応援する、サッポロ不動産開発のオフィス
恵比寿ガーデンプレイスタワーをはじめ、近隣エリアに複数のオフィス空間を展開しているサッポロ不動産開発。スタートアップ企業や若い起業家が挑戦しやすい環境をつくるべく、初期費用を抑えたプランなど契約におけるフレキシブルなプランを提供している。
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