欧州

2024.06.07 10:00

ジャマーてんこ盛りの「ツァーリ・タンク」、ウクライナ軍に鹵獲され再就役

ロシア側にばれるといけないので、ヘッドライトはつけなかった。そのため操縦士のテノルは何も見えなかった。暗視ゴーグルを装着したバイダルが砲塔に立ち、戦場の様子がよりはっきり見える近くの部隊から無線で指示を受けた。

T-72はテルニへ向けて進み始めたが、途中でロシア軍に見つかってしまう。ロシア側は戦車が自分たちから遠ざかっていくのか、それとも近づいてくるのか判断がつかなかったようだが、危険を避けるため砲撃を始めた。「やみくもな砲撃でした」とクリムは振り返っている。

テノルは戦車の限界までスピードを上げた。と、真正面に砲弾のクレーターが現れた。気づいたときにはもう遅かった。T-72はクレーターに転落し、その衝撃でテノルは3、4分間意識を失った。脳震とうを起こし、出血もしていたが、意識を取り戻すとすぐに戦車を動かし始め、クレーターからの脱出を試みた。「少しずつでしたが、どうにか外に出ることができました」とクリムは話している。

ほどなくして、テノルとバイダルは貴重な戦利品とともに、ウクライナ側の陣地の安全な場所まで戻ってきた。「万事うまくいきました。テノルが頭を打ちつけてしまったのを除けば」(クリム)

ジャマーは取り外され、詳しく調べるため情報部門に回された。アゾフ旅団は光学機器の割れたガラスなど外部の損傷を修理したあと、戦車をクリムらの戦車大隊に引き渡した。

T-72B3Mのほぼすべてはロシア軍の所属なので、そのままでは友軍から誤射や誤爆を受ける危険性が高い。戦車兵たちもそれがよくわかっていて、車体の側面に白いスプレーででかでかと「アゾフ」というペイントをしている。

ブトゥソウから「この功績でテノルとバイダルには国からどんな賞が贈られたのですか」と尋ねられると、クリムはこうはぐらかしている。「賞の申請はしましたが、もし国が違う判断をしてやつらが嫌な思いをするといけませんから、どの賞かは言わないでおきましょう」

いずれにせよ、「テノルは昇進することになるでしょう」とクリムは付け加えている。

forbes.com 原文

翻訳・編集=江戸伸禎

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