日進月歩の細胞・遺伝子治療では医師が深刻な病気を抱える患者から細胞を採取し、実験室で遺伝子工学を用いて細胞に手を加えた後、患者の体内に戻す。細胞は病気を抑えこむよう再プログラムされている。この手法はまず白血病などの治療で用いられたが、科学者らはこの手法が最終的には自己免疫疾患から糖尿病に至るまで、かなり幅広い疾患の治療に使えるようになると考えている。
科学は素晴らしいが、展開する規模が問題だとヘンリーは説明する。「患者一人一人に対応するため、治療は完全にその患者向けに調整されたものでなければならない」とヘンリー。「これは単純に大量生産できるものではない」
その結果、医師らは細胞・遺伝子治療を必要とする患者の対応に苦慮している。この治療の対象となる可能性のある患者は現在、世界中で約50万人いるとヘンリーはみている。だが現実には、同治療を昨年受けることができた患者は1万人にとどまった。そして、細胞・遺伝子治療で治せる可能性のある病気の数が増えるにつれて、対応能力は逼迫するばかりだ。
ヘンリーと同僚のヤン・ピアソン、トーマス・イートンの3人の医師が2020年に創業したリミューラは斬新な解決策を持っている。同社は細胞・遺伝子治療製品の製造者が製造過程の大部分を自動化するのに役立つ装置を開発した。
細胞・遺伝子治療製品の製造者は現在、必要な細胞を生物学反応装置で培養し、遠心分離機にかけて製造過程で出る副産物を分離している。製造過程を通じて、患者の細胞を装置から装置へと何度も移さなければならないことがあり、汚染のリスクを伴う。そうした移し替えは骨の折れる作業でもある。そこでリミューラは、生物学反応装置と遠心分離機の両方を備え、移し替えが不要の装置を開発し、特許を取得した。
「この分野は製造を工業化する初期段階にある。各患者に合った治療の開発はかなり高額で労働集約的だ」とヘンリーは言う。「当社の装置で製造コストを半減させることができ、おそらくさらに重要なことに、製造施設の能力を10倍、あるいは20倍高めることができると考えている」