先に科学雑誌『Science Advances』で発表された研究は、世界の異なる文化における歌と発話を比較した。慶應義塾大学SFC研究所の尾﨑雄人上席所員と環境情報学部のパトリック・サベジ准教授は、大規模な国際研究チームと協力して、世界各地の50カ国以上の音楽と言語の録音を分析している。
多くの異なる言語や音楽文化を考慮することで、それらに関係なく、音声と音楽の特徴がどのように比較、分析することができる。その結果、全般的に、歌や楽器のメロディーは会話よりもピッチが高く、遅いことがわかった。なぜそうなるのかはまだ明らかになっていないが、サベジは音楽が発話よりも予測可能で規則的である理由の1つは、音楽が社会的つながりを促す役割を担ってきたからだと考察している。
75名の研究者が本研究に参加し、それぞれが発話と歌唱(あるいは作曲)した音声を提供した。音楽研究の仲間たちを歌わせるのにさほど苦労しなかったとサベジはいう。多くの研究者が歌うことを喜び、サベジはこの珍しい研究データを調べることを楽しんだ。「私は彼らの歌と発話をすべてスマートフォンにダウンロードしました」とサベジはいう。「歩きながら、時にはシャッフルして聞くこともあります。みんなの歌を聞くのは大好きです」
サベジ自身は、英語話者の代表として『Scarborough Fair』を歌い、尾崎は東京地区の日本民謡である『大森甚句』を歌った。研究に参加した多くの研究者が、マオリ語、ヨルバ語、チェロキー語、ヘブライ語、中国語(マンダリン)、アラビア語をはじめとする多数の言語の録音を提供した。
本研究は非常に広い範囲をカバーしているが、1つの言語や音楽文化あたりのサンプル数が少ないため、より詳細な研究が必要だ。
サベジはこれと並行してオーストラリア国立大学(ANU)のサム・パスモアらとの研究プロジェクトにも参加し、そこでは「グローバルジュークボックス」を使用した。これは5000曲以上の歌のデータベースで、各曲に音楽様式や地理に関する情報の注釈が付けられている。研究チームはこのグローバルジュークボックスのデータを、異なる地域の遺伝的あるいは言語の多様性を記録したデータベースと比較した。
遺伝子と言語の分析は、人間社会が世界でどのように進化し広がっていったのかを研究するためにしばしば用いられてきた。たとえば、最近分岐した文化は、ずっと以前に分岐した文化よりも、相互に似通った言語を持つ。
音楽も、言語や遺伝子とおなじように時間とともに進化する。グローバルジュークボックスのデータベースを分析することで、筆頭研究者のパスモアは、はたして音楽の進化が言語や遺伝子の進化と合致しているかどうかを明らかにすることを願っている。「音楽の歴史はしばしば言語と遺伝子の歴史から乖離し、社会組織といった別の指標とより一致している可能性が高いことがあるということです」とパスモアがANUの声明で述べている。
これら2つの新しい研究は、音楽が世界の文化でどのような役割を果たし、そして言語と重なる部分や異なっている部分が明らかになり始めている。現在、わかっているのは音楽と言語は明らかに複雑な関係にあるということだ。
(forbes.com 原文)