味と早さの両立
ただ、消費者向けサービスの市場として、日本は参入が難しいとされる。日本語という言語の壁があるほか、高いサービス水準を求められるといった文化的事情もある。「味だけで勝負できるゲームではないと理解しています。店の清潔度、食事提供までの印象まで含めた総合評価になるでしょう。でも味の良さは基本であり、そこが日本での成功における重要なきっかけになると思っています」
キムが繰り返す味の良さ。これは、一から調理するからこそ成せるワザだ。ただ、当然ファーストフードに慣れた日本人からすれば、10分も20分もかかれば不満も募るだろう。味と早さの両立は簡単ではないはずだ。実際、マムズタッチ創業者の時代は「速さよりも真面目さ」というキャッチフレーズを掲げ、混雑時には提供まで30分から40分という時間がかかることもあった。「それでも味がいいので、待っててください」という姿勢だった。
しかし、代表の座を譲り受けたキムは、それを許さなかった。キムは、調理から提供までのプロセス研究を行い、全工程を5分以内(ハンバーガー単品の場合)でこなせるように改善した。スタッフの意識改革も行った。
「遅くても注文に最終的に追いつければOKという意識であれば、1日に受け止められる客数は減ります。全体の売り上げが下がり、スタッフを減らすことになる。すると、回転率が落ちてさらに売り上げが落ちるという悪循環にはまります。逆に、今日の生産目標が明確に決まっていれば、好循環に変わります」
バーガーキングが好調の日本市場
日本のハンバーガー業界を眺めると、店舗数上位のマクドナルドやモスバーガーは、増加率ではほとんど横ばいだ。その一方で急拡大を進めているのはバーガーキング。ユーザーから空き物件情報を募って出店する「バーガーキングを増やそう」キャンペーンというユニークなマーケティング施策、ボリューム感のある直火焼き100%ビーフパティが大きな看板商品「ワッパー」の人気などを背景に成長している。もともと割合の多かった男性客だけでなく女性の来店も増えているという。マムズタッチも、味やコスパ、顧客層の広さという点でバーガーキングのような勝ち筋を描くことはできそうだ。あっという間に完売した5600席。この初速のままに、日本でマムズタッチの店舗を見る機会が増えていくかもしれない。