2024.04.03 12:30

EVになったクラシックな「ミニ」は完璧な街乗りクルマ ただし買えるなら

安井克至
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運転席の右側にあるノブでは「ノーマル」モードと「スポーツ」モードを切り替えることができる。後者を選択するとアクセルペダルを強く踏み込んだときにわずかにトルクステアが発生する。この小さな車輪にもかかわらず、乗り心地も満足できるものだ。スピードバンプやロンドンの道路によくあるひどい窪みを乗り越えると明らかに跳ねるが、十分我慢できる程度に収まる。

ステアリングはスポーツカーのような正確さは感じられないものの、短いホイールベースと640kgという車重(オリジナルのミニと同等)のおかげで、コーナーに威勢よく飛び込むことができる。もっとも、ロンドンのほとんどの場所では20mphを超える速度は出せないが。しかしブレーキは、十分に制動力を発揮させるためにはかなり強く踏む必要がある。現代のEVでは即座にブレーキが効くのが普通だから、これは慣れるまで少し時間がかかるだろう。

ミニeマスタードで、風の強い英国郊外の道路を100km/h近い速度で走るのはとても楽しいだろうとは思うが、都市部からあまり遠く離れるのは考えものだ。搭載するバッテリーの容量は18.8kWhしかなく、一度の満充電で走れる距離は、国際基準のWLTPモードで177km。しかも、充電はACのみでDC急速充電には対応していない。長距離旅行に出かけるなら長時間の充電待ちが避けられない。自宅で充電して近所の短い距離を走るという使い方に留めたほうが無難だ。

バッテリーパックは、モーターが搭載されているフロントと、そしてリアの2カ所に分けて積まれているため、荷室は少し狭くなっている。だが、ハロッズで買物したり、スポーツジムに通うためのバッグをいくつか積む程度のスペースはあるし、内装はシートと同じ高級なレザーで仕上げられている。
荷室もぜいたくな革張り

荷室も高級な革張り(David Brown Automotive)

誰からも好感を持たれるクルマ

これまで私が試乗した中で、eマスタードほど周囲の注目を浴びたクルマはほかにない。ハイドパークで停車していた時には、通り過ぎるほとんどすべての人、しかもオリジナルのミニをほとんどあるいはまったく知らないような若者たちからも、好意的な言葉をかけられた。中でも最高だったのは、反対方向に向かうロンドンタクシーとすれ違った時、黒人のタクシー運転手が微笑んでうなずいてくれたことだ。ほぼ100%の人たちから称賛を得られるクルマがほしいなら、これ以上の選択はあまりないだろう。

すべてが牧歌的ですばらしいクルマのように聞こえるだろうが、1つだけ問題がある。顧客の注文に応じて1台ずつ手作業で製作されるミニeマスタードは、けっして安くはない。実はかなり高価である。一切の税金を含まない基本価格は12万5000ポンド(約2400万円)。だから、近所の路上でミニeマスタードを目にすることはあまりないだろう。しかし、このクルマを見せたら誰もがほしいと言った。価格を聞くまでは。もし、そこまで予算に余裕があるのなら、ミニeマスタードは格別に裕福な人のための完璧な街乗り用クルマとなるだろう。

forbes.com 原文

翻訳=日下部博一

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