真実の家族のあり方に光をあてるロードノベル『家族解散まで千キロメートル』

浅倉秋成『家族解散まで千キロメートル』KADOKAWA

そしてこのドライブは、実は喜佐家の面々にとっての最後の試練でもあった。
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というのも、半年前のお盆に主人公が結婚のため家を出ると宣言したのを機に、古い家屋を処分すると同時に、建物も家族関係もいい加減ガタがきている喜佐家を解体することで、一家全員の意見は一致していたからだ。

ご神体騒動は、その家族解散が3日後に迫った一家を襲った晴天の霹靂だった。慌てふためく一同は道中でも意見の衝突を繰り返すうちに、やがて彼らを突き動かしていた父親犯人説も、怪しいものとなっていく。

ドライブのさ中に二転三転する仏像泥棒をめぐるフーダニット(犯人は誰か?)の謎と、疑心暗鬼を深めていく4人を乗せ、ミニバンは夜の東北自動車道を疾走していく。

最高のサプライズ・エンディング

ところで、この崖っぷちの家族小説ともいうべき本作には、重要なキーパーソンがいる。モデルか俳優を思わせるすらりとした体型の40代前半の男で、気遣いもできれば人当たりも柔らかい。舞台美術の会社に籍を置く長女あすなの同僚で許婚者の賢人である。
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気性の激しいあすなとは好対照だが、成り行きからアルファードに乗り込んだかと思うと、潔く一行と運命を共にする。頭の回転も早く、ややもすると迷走する喜佐家の面々の軌道修正の役も担いながら、ナビゲーター顔負けの活躍を見せるのである。

そんな彼が、同行者たちと交わす会話のさりげない一節に、作者は大きな意味を持たせている。すなわち、皆婚社会への疑問、浮気の善悪、そして真の愛情の在りか、である。

「家族」が人間の容れる器(うつわ)だとしたら、人はそれをどう扱ったらいいのか?

控えめに、しかし手を差し伸べるように、賢人が投げかける会話のキャッチボールは、主人公らの心に棲みついた旧弊な価値観の壁を取りはらい、真実の家族のあり方に光をあてていく。

家族を諦めた者たちが家族のために苦闘する、なんとも滑稽で矛盾した旅路の果てに一家を待ち受けるのは、破滅か、それともハッピーエンドか? 家族が迎える最高のサプライズ・エンディングを、ぜひご体験あれ。

浅倉秋成『六人の噓つきな大学生』角川文庫

浅倉秋成『六人の噓つきな大学生』角川文庫

文=三橋 暁

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