北米

2024.03.19 10:00

米国のLNG輸出停止、メキシコのみならず自国をも不利な状況に

メキシコにできるのはリスクを分散させることだけだが、それも容易ではない。地理的な問題がなければ、カナダがメキシコに天然ガスを供給することも考えられるだろう。しかし、キーストーンXLの事例(訳注:バイデン大統領が2021年、カナダから米メキシコ湾におよぶ石油パイプライン「キーストーンXL」の建設許可を取り消した)が示したように、過剰反応とも言える開発反対の波が政治的影響力を強めるにつれて、エネルギー施設の建設計画は攻撃対象となることが多い。環境活動家らは近隣諸国の利害を無視して、米国を経由する天然ガスパイプラインの建設を阻止するだろう。そうなれば、カナダは自国産LNGを世界に輸出することになる。

ゆえに、メキシコからのLNG輸出の将来を決定する上で、米国を外すわけにはいかないのだ。米国の参加なしにはメキシコの繁栄はない。メキシコ北部は米国から天然ガスの供給を受けて活況を呈しているが、同国南部ではエネルギーが不足し、貧困から抜け出せないでいる。抑え切れない移民の流入を食い止めるために、米国はむしろメキシコへの天然ガスの輸出を増やし、同国の経済発展を助けるべきだ。

バイデン大統領によるLNGの一時停止命令(期限は設けられていないが、少なくとも今年の大統領選挙までは継続されるとみられる)は、現在検討されている未完のLNGプロジェクトすべてを危険にさらす。審査に時間がかかるほど、影響は大きくなる。投資家は撤退に向かい、投資を完全に拒否するようになるかもしれない。

商品生産を国内や友好国間に限定しようとする米国の試みも、害を及ぼすことになるだろう。メキシコは最近、中国を抜いて最大の対米輸出国となった。約束を撤回してメキシコ経済に打撃を与えれば、中国に対する自国の立場を強化するために米国が育むべきメキシコとの緊密な経済関係は構築できないだろう。

米国は昨年、世界最大のLNG輸出国に躍り出たが、自国の天然ガス産業をつぶして自らを不利な立場に置いても、地球を救うことはできない。それどころか同盟国に、ひいては自国にも損害を与えることになる。世界各地で紛争が勃発し、近いうちに終わる気配はない。こうした中、私たちや同盟国の回復力を低下させるようなことは間違ったやり方なのだ。それは未熟な戦略であり、自滅的な政策と言えよう。

安定したエネルギー供給は現代社会の基盤だ。今こそ実利を重んじるべきではないか。欧州はエネルギー価格の安定とロシア依存からの脱却に向け、米国産LNGを必要としており、メキシコは発展を続けるために米国の天然ガスを必要としている。米国は、こうした双方にとって利益のある提案に背を向けてはならない。メキシコのLNGへの取り組みは米国の天然ガス供給に依存しているが、急速に変化する世界の中での戦略的エネルギーパートナーとしての米国の役割も同様だ。

forbes.com 原文

翻訳・編集=安藤清香

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