毎年恒例となっている全人代での政府活動報告に初めて臨んだ李首相は、デフレ圧力と不動産業界が本格的な危機に直面する中、経済が完全に安定しているわけではないと説明。「この目標を達成するのは容易なことではなく、あらゆる方面からの政策支援と共同努力が必要だ」と呼びかけた。習近平国家主席の右腕である李首相はあらかじめ準備していた演説の中で、雇用の拡大を支え、国民の信頼を高めるような積極的な政策を追求すると述べた。
全人代の婁勤倹報道官は4日、特別な事情がない限り、李首相は2027年までの5年間の任期中、全人代閉幕後の記者会見を行わないと発表した。全人代閉幕後の首相記者会見は、ここ30年以上恒例となっていた。これにより、政府が国民と対話する重要な場がなくなるとともに、投資家にとっては中国首脳の意思決定について知る機会が減ることになる。
中国は今年、消費者物価指数(CPI)を3%程度上昇させることを目標としている。これに向け、政府は需要を押し上げ、デフレ圧力の中で長期化している物価下落を食い止めようとしている。また、不況で若者の失業率が上昇の一途をたどる中、年内に都市部で1200万件以上の雇用を創出したいとしている。
中国経済にとって鍵となるのは、電気自動車(EV)や人工知能(AI)を含む先端技術だ。政府はこうした先端技術が、かつて同国の国内総生産(GDP)の4分の1を占め、信用の上に成り立っていた不動産業界の低迷を補うことを期待している。だが、国民が支出を控えていることから、EVの国内販売は減速しつつある。EVの輸出拡大に向けた動きも、欧州連合(EU)が昨年、中国製EVの輸入に対する補助金の調査を開始するなど、海外からの抵抗にさらされている。中国は米国とも先端技術を巡って衝突している。米国のジョー・バイデン政権は、AI向け半導体やその他の技術が軍事関連に使用されることを防ぐため、中国への輸出を制限しているのだ。
このようにあらゆる課題が山積していても、中国政府は大規模な景気刺激策に踏み切る気配を見せていない。政府はそれによって債務が持続不可能な水準にまで膨らむことを懸念しているからだ。
こうした中、中国政府は米国の優位に立つことを視野に、国を挙げて科学技術に突破口を見出すよう呼びかけている。李首相は政府活動報告の中で、今年の科学技術研究予算を前年比10%増の3708億元(約7兆7400億円)に引き上げると表明した。
(forbes.com 原文)