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2024.03.01 13:00

CO2削減の切り札、安価な「グリーン水素」提供を目指すElectric Hydrogen

安井克至
ゴールドマン・サックスは、グリーン水素の登場によって、世界の水素市場の価値が2030年までに、現状の2倍の2500億ドルになると予測している。米国では年間少なくとも1000万トンの水素が使用されており、現状では、事実上そのすべてが天然ガスから製造されたグレー水素だが、これをグリーン水素に置き換えるためには、500テラワットの電力が必要になると米エネルギー省は試算している。これは、現在の米国の電力生産量の13%増に相当する巨大な電力という。

しかし、米国のトップクラスの太陽光発電システムメーカーでナスダックに上場するFirst Solar(ファーストソーラー)のCTOを務めていたガラベディアンとイーグルシャムの2人は、そのことを気にしていない。「この分野では、長期的に多くの付加価値が生まれるはずだ。短期的なコストを心配するのはナンセンスだ」とガラベディアンは語った。

コスト削減の努力

水素はクリーンエネルギーの可能性を大きく変えるものとして長い歴史を持つが、過去20年の間、技術的な課題に直面してきた。宇宙で最も豊富な元素である水素は、炭素を含まない資源から作るには安価ではなく、圧縮や貯蔵、運搬のコストも高い。そのため、生産地点の近くで使用するのがベストなのだ。

一方、水の電気分解によってグリーン水素を製造するための装置の電解槽は、プラチナやイリジウムのような高価な材料をコーティングしたフィルター装置を用いている。そのためグリーン水素は、現在多くの大規模なプラントが利用中の水蒸気メタン改質(SMR)プロセスと比べて、価格面で大きな不利を強いられている。

エレクトリック社は、この状況を変えるため、高出力の電解槽とガス分離タンクなどのシステムを組み合わせた水素プラントを設計した。さらに、電解槽の価格を下げるために、フィルター装置を化学メーカー向けに大量生産を行っている企業から調達している。その結果、同社は競合他社よりも電解槽1台あたりの水素の発生量を多くし、全体的なコストを下げている。

「私たちは、創業当初から化学プラントのような大規模なユースケースを想定し、技術を磨き上げてきた」とイーグルシャムは述べている。

政府の税額控除の追い風

再生可能エネルギーを用いてグリーン水素を製造するエレクトリック社は、米財務省がインフレ抑制法のもとで昨年末に提案したクリーン水素製造税額控除(Clean Hydrogen Production Credit)の恩恵を受けようとしている。通称「45V」と呼ばれるこの制度は、化石燃料で発電した電力ではなく、再生可能エネルギーを常に使用して水素を製造する企業を対象に、水素1キログラムあたり最大3ドルの税控除を提供するもので、エレクトリック社はその適用対象になる。

しかし、グリーン水素システムを開発している多くの企業は、この提案に怒り、まだ始まったばかりの産業には厳しすぎると主張している。米国を代表する電解槽メーカーであるPlug Power(プラグパワー)ディーゼルエンジン大手カミンズ社のクリーンテック部門であるAccelera(アクセラ)らは、この制度に反発している。
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編集=上田裕資

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