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2024.01.25 09:00

先進システムSIMSを生み出した気概。DXは変革を実現する“イネーブラー”

高橋泰之|日本郵船 執行役員 グループCIO

Forbes JAPAN 2024年3月号(84ページ〜)では「CIO AWARD 2023-24」を特集。DXの旗のもとに変革を主導するテクノロジーリーダー5名を発表する。

本記事では受賞者5名のうち、「AIサステナブル賞」を受賞した日本郵船の高橋泰之にスポットを当て、本誌よりの転載でお送りする。



「船を故障させないよう動かすことや、気象、海象を分析して最適航路を走ることはコスト的に重要なのですが、それ以上に燃料を削減して経済的に走ることができるかが、われわれにとって死活問題なのです。1パーセント改善するだけで、ものすごい経済効果が生まれる」

日本郵船執行役員兼グループCIO、郵船ロジスティクス執行役員兼CIOの高橋泰之は、こう話す。燃料削減、ゼロエミッション燃料への転換、さらに脱炭素化船舶の開発と課題は山積する。こうした課題解決の手段となるのが、デジタル技術を活用したデータ集積と解析だ。「全社的にデジタル基盤の整備が不可欠になる」と、高橋は言う。

デジタリゼーションは、業界に先駆けて取り組んだ。2008年にいち早く、運航データや燃料状況などのデータを収集するIoT機器「船舶パフォーマンスマネジメントシステム(SIMS)」を保有船舶に導入する(2023年9月時点で205隻)。SIMSは、船舶の速度や燃費、気象、海象情報など詳細な実海域データをリアルタイムにモニタリングし、収集したビッグデータを衛星経由で陸上に送信する仕組みだ。目的はリアルタイムに船舶の異常検知やトラブル予兆、燃費状況などを検証しトラブルを回避することだが、事故やトラブルによる船舶停止を阻止できることから燃料削減につながる。

2021年に第3世代のSIMS3にバージョンアップされ、搭載隻数は73隻(2023年10月時点)に上り、船陸間でのデータ共有の間隔は1時間から1分に短縮された。年間燃料費約300億円の削減効果をもたらす。

SIMSによってビッグデータが集積され、可視化されることによる効果はほかにも生まれている。データをもとに、船舶管理会社やさまざまな部署が既存事業のバリューアップ、新規事業・新規市場の創出や技術開発を進めているのだ。

新規事業・市場の創出や技術開発は、2023年に発表された4カ年中期経営計画の「ABCDEーX経営戦略」の目標として盛り込まれている。「DXは、中核事業の深化のAXと新規事業の開拓のBXを両輪とする基軸戦略、人材・組織変革・グループ経営変革のCX、エネルギートランスフォーメーションのEXを実現するための手段“イネーブラー”として位置付けているのです」と、高橋は説明する。

現在、推進しているDXは、水素・アンモニアバリューチェーン、低・脱炭素輸送、自律運航船の開発などの実現だ。また、データ収集とシミュレーション技術を活用した温室効果ガス削減の可視化も進めている。2050年までにネットゼロ達成に向けた脱炭素化を掲げる。
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文=中沢弘子 写真=苅部太郎

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年3月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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